試行錯誤ブログ

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47.「前途多難」

GW中に引っ越しをした。職場の近くに。

リモートワークによって週2日しか会社に行かなくなり、わざわざ通勤に長い時間をかけることが煩わしくなってきたので決意した。

 

4月の2週目、ひたすらアプリで物件を探していた。

厳選に厳選を重ね、ある1つの物件に目星を付けて内見の依頼を行った。正直、厳選を数日間に渡って行ったため、第一候補だった物件が埋まったりしたことからようやく内見を決めた物件に住みたいところかと言われると違った。でも、不動産屋でもっといいの紹介されるだろうとも思い、また部屋の広さも見たかったため、依頼した。

内見を希望した部屋の大きさは10帖ほどだった。

 

4月の3週目、内見をした。

2日間に分けてそれぞれ違う不動産屋へ行き、合計3件の内見を行った。不動産屋ではまず、自分の希望する条件を言って、10帖と7.3帖の物件を見に行った。

1件目に行った10帖のとこは、先週厳選に厳選を重ねて内見依頼を出した物件だったのだが、間取りがなんか気に入らなかった。玄関から廊下を通って部屋に入ると、左の壁は廊下からそのまま続いており、右側に部屋が広がっていった。部屋の広がり方もいびつで、上から見ると3つぐらいの山が連なっているように見えた。右の山(玄関近く)はクローゼット、真ん中にはベランダ、左はちょっとした空間と崖(玄関から一番奥の壁)に窓があった。寝床はベッドが良くて、大体長さ2メートル、幅1メートル換算で部屋のどこに置こうか模索したけども、一番左の崖に当たるところはベッドがギリギリ入らなさそうで、代わりに置く場所も検討がつかなかった。つまるところ内装のイメージが全くつかなかった。また、正直広すぎるなとも思ったことからやめた。

 

2件目は1Kで7.3帖の部屋だった。1件目よりも内装のイメージは付いたけど、やはり10帖の物件を見てしまった後なので幾分狭く感じてしまった。8帖ぐらいがいいのかもしれない。間取りも真四角で、1辺の中点に玄関へと続く廊下があり、その反対側にベランダがあった。その構造がまた狭さを感じた一因なのかも。真四角な部屋の入口は隅にあってほしい。

 

結局その日は持ち帰り考えますと言って帰った。

 

内見2日目。

不動産屋に行く前に軽く駅周辺を散歩しようとひたすら練り歩いた。満遍なく歩いたことでもう正直全部知った気になった。予定時間の10分前、まだ歩いていない道があり、行きつく先も動産屋近くだろうと踏んで歩いていった。見事違った。むしろ現時点で知りうる中で一番遠い所へと出た。霜降り明星がM-1で披露した漫才にこんなくだりがある。せいやが水泳で溺れかけ頭の中に走馬灯が駆け巡るシーンで、せいやが散布中に「この道に出るのか~」と発見し、「しょうもない人生」と粗品が突っ込むシーン。この掛け合いがめちゃくちゃ好きで、思わずこれを思い出した。しかし、現実はシビアでよて時間に遅刻しそうだった。おまけに雨も降ってきた。地図を調べる時間も惜しくひたすら不動産屋の元へと走った。すでに散歩で歩いてきた道だったため道のりは分かっていたが、のんびりとしたテンションではなく「この道に出ちゃうのかよ!」と驚きと焦りが混ざっていたので最悪だった。

とにかく必死に走った。結果、無事時間通りに着いた。よかった。

 

不動産屋では、昨日内見して感じたことも伝えた。条件を提示していくつか物件を紹介されることを繰り返した結果、たまたま残っていた新築の物件が見つかった。8.2帖だった。部屋の広さだけでなくそのほかの条件にも見合っていたのでその物件を内見することにした。

部屋の間取りはテトリスの駒のようなZの形だった。一番扱いに困るやつ。

部屋に入った感想は7.3帖で感じた圧迫感はなく、また無駄に広すぎるなと思うこともなかった。ちょうどいい感じがした。不動産屋に「内装のイメージは付きますか?」と聞かれ、正直部屋の形がいびつでコンセントの位置も微妙なとこにあるため、イメージなんて何もついてないけど、もうほかに物件なんてないだろうと思い「はい」と応えて住むことに決めた。時期としても新築物件が残ってるのは珍しいらしいし。格安な新築物件は残っているらしいけど。

 

4月の4週目、契約をした。

4月の5週目からGWにかけて、引っ越しをした。

 

引っ越し自体はしたいと思っていたけど、中々食指が動かずだらだらと過ごしていた。でも物件探しのアプリをダウンロードしてから契約、引っ越しまでの速さが我ながら尋常じゃないなと思った。決断からの行動が速い。これからもこの感じを大切にしよう。

 

GWをかけて引っ越しが完了し、部屋で一息つく。

日の光を浴びたいと思い、ベランダへと赴く。部屋は1階のため大した景色なんぞ見えず、向かいにある家の壁が見えるだけ。正面から住宅街が右の方へと連なっている。左を向くと公園がすぐそばにあって子供の走る姿が見える。その向こうに電車が走る姿も見える。下を向くと砂利道に室外機が立ち並んでいる。その室外機の間にカップ麺のゴミがあった。そういえばまだご飯を食べていなかった。と同時に、このゴミは自分よりも階上の人が捨てたんだなと思った。変な人が同じマンション内に住んでいないといいなと思っていたけど、とりあえず平気でポイ捨てする人がいた。ちゃんと処理してくれよ。

眼下に広がる砂利道は、このマンションに住む人しか立ち入り出来ないところであり、正直立ち入る理由もないところではある。自分のせいにされるのは嫌なのでいつか処理しようにも、なぜ自分が処理しないといけないのかと思う。また処理したことでいつだった砂利道に捨てても誰かしら、もしくは1階の人が処理してくれると階上の人が思ってまた捨ててしまうかも。いや、もしかしたらこれを書いてる今もまた新たなゴミを捨てているのかも。とにかく前途多難である。

 

そういえば新卒の時の配属初日も嫌なことがあった。

昼食の時間となり、会議か何かしら終わって自席へと向かうため、階段に続く扉を開けると、その階段は食堂やコンビニへと向かう人でごった返していた。その様子に驚きつつ流れに乗って降りようとしたら、すれ違いで階段を上っていた人が急に振り向いてきた。鬼気迫る顔だった。なぜだか右手を振りかぶっていた。その様子に、もしかしたら殴られるのかもと思った。ほかにも人がいたことから手を降ろし、その人はまた階段を上っていった。原因を探った。たぶんきっと足を踏んでしまったのだろう。そういえば何かモニュッとしたものを踏んだ感触はあった。その人はサンダルだったことからいっそう痛かったのだろう。申し訳ないなと思いつつ怖かった。なんで配属初日からこんな嫌な気分になるんだろうか。前途多難だ。

 

初日は嫌な気分を味わうことが多いのかもと思った。

それでも、なんとか生きてるし会社もなんとかやっていけているので、今のマンションでもどうにか過ごしていけるだろう。

しかし、まだ隣の部屋の住人への挨拶が住んでいない。

こうしたことが前途多難を呼んでいるのかも。ちゃんとしよう。

 

46.「2020年に読んだ本」

今年はコロナ禍で自宅にいることが多くなり本を読む時間も増えたはずだったけど、夜寝る前にしか読まないスタンスは変わらずだったので結局全然読めてない。

なのに毎週末、本屋へ行っては何かしら本を購入してしまうので積読が進んでしまう。

 

今年も面白い本が多かった。いくつか同時並行で読みつつ、面白かったものを最後まで読み切るスタイルだから面白い本が多かったという感想は当たり前だけれども。

年末に一気に書いてるから忘れていることが多々ある。もったいない。

 

ネタバレしながら感想書いた。

15冊目の「わるい夢たちのバザール」が一番わかりやすく書けた、気がする。

 

1.「炎上する君」西加奈子

どうやら足が炎上している男がいるらしく、それを噂に聞いたOL2人が探しに行く話、だった気がする。 ネットでの炎上を描いた話なのかなと思ったら本来の意味で炎上してんのかい!と思った。でもこれもネットの炎上元を検索してみたら…ってのを比喩しているのかもしれない。比喩だと思ったら比喩じゃなかったけど実は比喩みたいな。

 

2.「ツリーライフ」角田光代

箱根にある箱根本箱という「本を読むための専用ホテル」で購入した本。

箱根本箱はエントランスを囲うように巨大な本棚があって、ホームページでもその光景は見てたけど、改めて真っ先に目に入ってくる本棚のその大きさと飾られている本の多さに驚いた。

 

ウェルカムティーを飲みながらホテルの説明を受けて部屋に向かうと、室内にも本がいくつか飾ってあった。旅行をテーマにセレクトされていた。このようにテーマごとにセレクトされた本がエントランスの本棚だけでなく、ホテル内のいろんな所に点在しているらしい。どこにどのようなテーマの本が飾られているのか、このホテルを探検するのもまた楽しかった。

ほんとにいろんな所に本があり、またくつろげるスペースがある。エントランスの本棚の中にも座ったり、寝ながら読めるスペースがあって、他の宿泊者もみんな各々の形で読書に耽っているので、自分も心行くままに本棚の中に寝転んで読んでいた。

 

「ツリーライフ」はエントランス本棚の入口から見て左奥に飾られていた。西加奈子さんによる物語の力を感じる作品のセレクトの1つだった。

おじいちゃんが亡くなったことを契機に、うちには祖先の墓も親戚も何もないことが分かり、そこからルーツを探しにおばあちゃんらと旧満州へと旅立つ話。その自分のルーツを探しに行く話と共に、祖母と祖父がいかにして満州で出会ったかの話が交互に描かれる。

終盤に確か祖母が言う「ここではないどこかに行けば、なにか起きると思ってんだろ」というセリフの説得力と重さが凄かったと当時の日記には書いてある。生まれは日本だが、何か変わるかもと思って満州へと旅立った祖母はそこでひどい目に遭い、命からがら日本へ来るも身寄りもなく、ずっと不幸な目に遭ってきた。その都度誰かの助けは借りるも結局は自分自身の力でどうにかしてきた祖母。その様子を終始描いてからのセリフだったから非常に刺さった。いい本だった。

 

そういえば「箱根本箱」の室内にはベランダと露天風呂もついており、またテレビや時計はなかった。時間など気にせず心置きなく本に没頭できるスペースが整っていた。1泊2日のコースで朝晩はフルコースだった。とても美味しかった。時間を気にせずだったが食事の時間だけは決まっていた。ほんとは室内にも時計は置いてあったかも。 また行きたい。次回に使える割引券を貰ったことを思い出した時にはチケットの有効期限が迫っており、結局使えず仕舞いだった。もったいない。

 

3.「息吹」テッド・チャン

9つの短編集。 「商人と錬金術師と門」「息吹」が面白かった。

「商人~」は特定の時代に飛べるワープゾーンを使って夫の昔の姿を見て結婚当初の気持ちを思い出そうとする話だった気がする。ワープゾーンは世界各地のある店にあって、またワープゾーンも場所ごとによって飛べる世界が違うとか何とかで旅行もしてた気がする。全然覚えてない。でも面白かったのは確か。「TENET」みたいな話でもあった。この作者の「あなたの人生の物語(映画だとメッセージ)」も同じような話だった。これは構造もだけど伝えようとすることも一緒だった。と思う。

悲しい結末が来ると分かっていても、これから何かをやらない理由にはならない、と。

 

4.「ドミノin上海」恩田陸

装丁がいいし、あらすじから群像劇っぽいので滅茶苦茶好みだと思って読んでみたらほんとに面白かったから最高のパターン。本を売り込むためにハードカバー版の装丁はこだわってる はずで、それが好みのものでしかも内容まで好みだと嬉しい。

 

香港を舞台に25人と3匹の動物を主人公にとある1日に起きた大騒動を描いてる。

ペットのイグアナが死んだことで悲しみに耽って映画撮影を中断した映画監督に彷徨うイグアナの幽霊、時間厳守のため200キロ出せる改造バイクによって宅配するバイク便にそれを追う警官、動物園から脱走を図るパンダやただ香港を観光しに来たOL3人など、読み始めは全然関係ないキャラの描写から始まるけど、それらがどんどん交わって想像もしていない展開へとたどり着く。よい。とてもよい。

解説を読むとこれは続編だった。約20年前に「ドミノ」という作品が出ていてそれの5年後を舞台にした作品だった。そっちも早速購入した。

「ドミノ」の方は文庫版を購入したが、文庫版とハードカバー版での違いがあった。ハードカバー版の「ドミノin上海」にはキャラ紹介があって、それは人物の名前だけでなく簡単な紹介と絵が描いてありその世界を想像するのに一役買っている。一方、文庫版の「ドミノ」にはキャラ紹介はなかったが、解説にはハードカバー版には絵付きのキャラ紹介があったと書いてある。文庫版のほうが解説や加筆されてなおハードカバーより安いことが多々あるが、ハードカバー版にしかない魅力もある。だからこれからもハードカバー版を買うだろう。そしてその本の文庫版が発売されたときには、解説や加筆されたことを知って歯ぎしりしながら文庫版も購入するのだ。

 

5.「三体」劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)

普段、アメコミ関係の感想ばかり呟いている人たちがみんな面白いとツイートしていたので買ってみたら大変面白かった。中国発で2000年代に発売されたものの邦訳されたのは最近の本作。

中国の60~70年代に起きた文化大革命で父親を殺された女性の生涯を描いた過去編と、突如世界中の物理学者が自殺しだした現代を舞台に、視界にカウントダウンの数字が見え始めた物理学者がその謎を追う中で、3つの太陽を持つ惑星を舞台にした「三体」というVRゲームを攻略していく話。なにがなんだかだけど後半まで読み進めるとまじかという展開に。ラストはすぐに続編が読みたくなる。

全3部作だが、まだこのときは2作目が発売されておらず久々に早く続編発売されないかなという気分を味わった。ハリーポッターの次回作を待ってた時以来な気がする。

三体とは一体何か、いろいろと作中示唆はされているもののどうにも全容は掴めないまま読み進めていくと、気付いたら作中のあれやこれが衝撃的な展開と共に繋がってきて、クライマックスは壮大な作戦に心躍らされた。そして続編は絶望しか待ってないだろと思いつつも最後に挿入されるエピソードに納得させられ、僅かな希望を持たされた。ネットフリックスでのドラマ化も決まっているのでそちらも楽しみ。

最近、三体のドラマのプロデューサーが毒殺されたと聞いた。物騒すぎる。 

 

6.「カササギ殺人事件」アンソニーホロヴィッツ

2018か2019年に話題になった本。上下2巻で先に上巻だけ買って読んでみた。この判断がとてもよかったと今では思う。上巻を読まない限り絶対に下巻のあらすじを読んではいけない。 そこに大きな仕掛けがあるからだ。

 

舞台はイギリスのどこか田舎町。そこには大きな屋敷があって、そこに住むお金持ちが旅行に出かけている間に雇われているメイドが階段から転落死した。その死を不審に思った町に住むある女性がイギリスでは有名な探偵に相談して、その死の真相に迫っていく。そんな感じだった。

 

この本は一体誰が犯人なのかを考えるミステリーで、こういったものをフーダニットと呼ぶらしい。実際、読み進めていくと怪しい人がたくさん出てくる。自分の中でこの人が謎解きも出来るのが楽しいところなのだがこの本にはどうにも別の違和感がある。それは目次あたりから抱くものであり、また読み進めていくうえでも気付くのだがこの本はどうやらシリーズものらしい。しかもこの本で9作目だ。この本を読み終わったら前のシリーズ、しかも4作目を読みたくなってくる。ひとまず安心してほしいのは今までのシリーズを読んでいなくとも十分楽しめる。そして一切このシリーズについては調べずに読んでほしい。とにかく読んでほしい。そうして上巻を読み終わり、下巻を読み始めるときっとこう思う「あれ、違う本買っちゃった?」と。

もうネタバレしそうだからやめる。というかしている気がする。

面白かった。

 

7.「ドミノ」恩田陸

「ドミノin上海」が面白かったから買いました。 東京駅を中心に、またまた20以上のキャラクターが縦横無尽に駆け巡るとある1日を描いた話。「ドミノin上海」で香港に遊びに行ったOL3人や絶対に時間厳守で届ける宅配便の男、イグアナを飼っている映画監督などが出ていた。初めて読んだはずだけど、なぜか読んだある気がした。なんにせよ面白かった。オーディションに挑む子役たちや東京駅を爆発させようと画策する犯罪グループなどが、いろんなすれ違いを経て次第に1つのところに集まってくる構成が良い。

関係ない人々がある1点に集結していく展開がどうやら好きっぽい。

 

8.「メインテーマは殺人」アンソニーホロヴィッツ

葬儀屋に自分の葬式プランを相談した日の夜に殺された老婦人。果たして、その老婦人は自分が死ぬことを知っていたのだろうか—

カササギ殺人事件が大変面白くて、そしてこのあらすじに心掴まれて購入してあっという間に読み終わった。

この本の主人公はアンソニーホロヴィッツ、つまり作者本人である。ホロヴィッツは実際に刑事フォイルなど多数のドラマの脚本も書いており、刑事ドラマを書く上で参考にするため協力してもらっていた元刑事ダニエル・ホーソーンからある日、自分の話を書いてくれと頼まれる。捜査における取材内容などを事細かく書くことを指示されて出来上がったのが本作。章立てで構成されており、1章は事件当日の模様が描写されているが、あくまで聞いた話として描写されている。犯人側でも被害者側の目線でもなく第3者目線で語られおり、ずっとホロヴィッツが見聞きした話が時系列順に書かれている。回想なんてない。それが新しかった気がする。ミステリーはいろんな人目線で語られるイメージはあるが、ずっと1人目線だった。そして何より面白いのは3章最後に「1章の中にはっきりと犯人を指し示す描写がある」と明言されていることだ。これを読んで何回も1章を読み直したことは言うまでもない。今までの本にもこういった文言はある気はするが、作者自身が主人公であるドキュメンタリーチックな物語だからことなしえる構成である。そんなことを思いつつ1章を何度か読み返す。しかし犯人は全然分からない。まあ1章に出てくる人物は少ないため、目星は付けてはいたものの犯行手口や理由などは全然わからなかった。全く分からないままもういいやとなり、読み進めた。クライマックスで当然犯人が判明するのだが、まさかの目星をつけた人だった。しかしながら殺人を犯した理由などは全然わかってないため、読み進めていく。トリックなどの解説が書かれている。そこで1章も読み返す。ほんとに示唆されている。すごい。この作者はシャーロックホームズの正当な続編であると認められた小説も書いており、フーダニット作品を知り尽くしているらしく、あらゆる技術を取り込んだ新境地とのことでめちゃくちゃ面白かった。おかげで文体も途中変になった。

 

9.「三体Ⅱ 黒暗森林」劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)

発売されてからすぐ購入した。期待以上の面白さだった。あらすじを書きたいけど、あらすじ自体が1巻のネタバレになってしまうため書けない。はがゆい。別に本紹介をするわけでもなく読んだ本の感想を目的に書いているため別に書いてもいいとは思うが、やっぱりかけない。ただめっちゃ面白い。 

 

 

やっぱり誰のためにやってるわけでもないので、ネタバレした感想を書く。

400年後、三体人が地球を奪い取りに攻めてくることになった地球。相手は全人類の言動を監視しているため、うかつに作戦会議も出来ない。

そこで人類は面壁者というアイデアを考えた。面壁者とは、三体人に対する作戦を自分一人で考え、その作戦遂行するにあたって地球上すべてのリソースを使うことが許されている存在である。その発言はすべて作戦とみなされる。

面壁者に選ばれたのは4人。1国の元大統領など、優秀な人材が選ばれてはいるが、主人公のみは学者ではあるもののほか3人と比較したら有名でもないので、戸惑っている。しかし、そんな主人公を三体人は一番に恐れていたー

なんでもないような人が一番恐れられているのが好き。そして面壁者と破壁人の戦いが面白い。破壁人は三体を支持する人の集まりで、面壁者が何を考えているのかを見破る人。ここの対決がサスペンスみたいで面白かった。主人公以外は、破壁人が策を見破ることでその作戦を無効にしようとしていたが、主人公に対して三体は明確に殺そうとしていて、軽度だけど感染力が異様に高いインフルエンザが世界中に蔓延した時、主人公は自分が殺されそうなのを知っているため地下深くに潜っていたものの感染してしまい、主人公は途端に重症を負ってしまう展開はまるでコロナみたいだった。インフルエンザにはある遺伝子のみにーというか主人公ー反応するようになっており、一般人には無害だが、その特定の人には重症をもたらす。コロナも重症や軽症の人がいて、真っ先にこれを思った。話は主人公がそのインフルエンザに罹ったままコールドスリープに入れられて、一旦200年後へと飛ぶ。

現代医学では太刀打ちできないので未来に飛ばそうということだ。このインフルエンザが直せる年代になったら起こそうというので、目覚めたら200年後だった。現代の地球人は未来に対して絶望的だったが、200年で技術が爆発的に進化しており、人類は宇宙軍(正式名称じゃない)を設立していた。

地球は大きく3つに分かれており、地球上の表面に住む人、地球内に住む人、そして宇宙軍に分かれていた。地球の表面は砂漠化していて主人公と同じく過去からコールドスリープしてきた人がこの時代に馴染めず、荒廃はしているものの2000年代の代物が多く残っているこの地に住んでいた。

地球内部は地上から大きな根っこのような建物が生えており、未来人の多くがそこに住んでいた。すごくSFチック。未来ではオンライン会議が当たり前で、この辺りもコロナ禍の未来を予言していたと思わされる。こうした描写の1つ1つが未来の予想すごいなと唸らされた。

宇宙軍は完全に地球から独立しており、1つの国として成していた。しかもそれが3つ存在していた。ある時、地球の近くに三体人が飛ばしてきた水滴のような物体が留まっているのを発見した。これに対して3つの宇宙軍は協力して接近を試みた。ついに水滴に触れた瞬間の描写も好き。1作目から出ている学者だけが人々に警告しながらも接触を試み、ついに触れた時に恐ろしいことが起きる疑惑が確信に変わってすぐさま逃げろと言うももう遅い。あっという間に宇宙軍は壊滅となった。地球人は絶望する。宇宙艦隊を開発したことで三体人にも勝てると思っていたからだ。三体Ⅱの主人公は学者だけど、もう1人軍人も主人公的に描かれている。その軍人の話も面白い。三体が攻めてくるにあたって、諦める雰囲気が漂っていた現代で諦めずに挑む空気作りを行ったり、この軍人もまた200年後に飛んで、そこからの行動が面白かった。困難な事態に陥った時の人間の動き方が納得させられ、またそれぞれのキャラに対しても意外な展開が待っているのがよい。そして2人の主人公それぞれがたった一人で最終決戦に挑むような描写もあって、そこが熱い。特に学者の主人公がたった1人で三体人に立ち向かうシーンは最高。本作は蟻目線で話が始まり、スケールの小さいところから壮大なスケールの話が展開されて、クライマックスはその冒頭の蟻目線とシンクロしながら三体人に立ち向かうシーンはとてもよかった。3作目は2021年春に刊行予定なので楽しみ。

 

10.「逆ソクラテス伊坂幸太郎

5つの短編集。表題作の「逆ソクラテス」が一番好きだった。

「僕は、そうは思わない」この言葉を武器に戦う小学生。ほどよく伏線回収もあって、自分も頑張ろうという気持ちになれて良かった。ほんとによかった。三体に比べて感想が薄いけど。三体の感想もあらすじがほぼ占めてるからそんな変わらないか。

 

11.「星の子」今村夏子

昔読んだときに終始怖い雰囲気が漂っていて、読み終わった後は結局何も救われてないんじゃないかと思った。映画化されるので改めて読んだ。本、解説、誰かの感想、映画を見たうえでの複合的な感想を書いた。

一般的な夫婦の元に次女として生まれた主人公ちひろ。幼少期のちひろは病弱で、それを上司に相談した父親はとある特別な水を貰ってくる。この水で濡らしたタオルで拭くといいんだ。少し怪しげだが、かけがえのない我が子のため、藁をもすがる気持ちで行っていく。するとみるみる内に病気は治っていった。この経験から夫婦共々その特別な水を扱っている団体に没頭していく。そんな家族の元で育ったちひろの高校生までを描いている。基本的には時系列順だが、多くは説明されず、後ほど思い出したかのように綿密に描写されることがある。

最初は装丁がよかったから購入した覚えがある。その後、売っちゃったけど。文庫版で購入した。

改めて読んでみて、家族4人誰にも感情移入した。親にとっては我が子の命を救ってくれたことをきっかけに入信してしまうことは十分あると思う。たまたま今年、兄のとこに子供が生まれた。その子は健康そのものでなによりだが、1歩何かが違えば十分作中の夫婦になりえる可能性もあったんだなと日々思った。今も思ってる。

ちひろの姉はちひろにはどこまでも優しいのだが、怪しい団体にハマっていく両親のことは嫌に思っている。姉は一度、叔父と結託して家にある水をすべて公園の水道水に中身を入れ替えた。叔父がその旨を伝えると両親は激怒し、2度と来るなと家から追い出す。その様子を見た姉は、叔父と一緒に作戦を実行したにも関わらず、包丁を持って叔父に突き立て、早く出て行けと告げる。しかしその後はやっぱり両親に嫌気が差して家出をし、戻ることはなかった。

一方、ちひろは両親と共に怪しい団体のイベントに参加をしていた。しかし、特段信じているわけでない。ただ親がやっているから自分もやっているだけだった。作中、友達2人と先生の車に乗って帰宅を共にすることがあった。その時、ちひろの家の近くの公園でとある夫婦が頭に白いタオルを載せて、そのタオルに水をかけている光景を目撃する。先生は危ないからと車を出ようとするちひろを制する。しかし、その夫婦はちひろの両親だった。両親がどこかへ行くとちひろは車を降りるがそのままどこかへと走り去ってしまう。

Twitterで誰かが「親を馬鹿にされたらそりゃ怒るわ」みたいなことを呟いていた。確かにと思った。だからこそあれだけ嫌悪していた両親を怒らせた叔父にも姉が怒ったんだろうし、姉はその後家出して戻ってくることは無かったが結婚したことなどの連絡は家に入れている。ちひろは家族のことを想っているはわかるし、両親も家族のことは本当は一番に想っていることがクライマックスの描写からもなんとなくわかる。

クライマックスでは教団の合宿に参加したちひろと両親。ちひろと両親はイベントによって離れ離れになる。両親に中々会えないちひろ。これはまだ親離れが出来ないのか、それともちひろにとっては教団の教えは不要なのか。やっと巡り合って3人で星空を見ることに。そこで流れ星を見るが、両親だけが見れるときと、ちひろだけが見れるときがある。両親とちひろの会話が噛み合わない。ここでやっぱりちひろは教団には染まってないんだろうなと思った。

教団で来年の目標を喋るシーンがある。映画ではカットされていたけど、彼女が教団の信者ゆえについてきた金髪の彼氏が喋ったことがよかった。映画は家族愛を重視した結果カットしたのかな。

文庫版の最後には対談が乗っていて、そこで昔、頭にタオルを載せている人を見た時に「河童みたい」と呟いた友達がいるみたいなことを語ってた。その発言が面白くて今回の作品を作ったらしく、その発言が今作の白眉になっていた。映画でもその発言で笑いが起きてて尚更すごい。この発言したキャラがいい。

散文的になった。次は感想を書く上でも何を伝えたいか考えてから書く。

 

12.「昨日、星を探した言い訳」河野裕

舞台は現代日本だけど、目が黒い人と青い人がいて、青い人達は数が少なく、またかつて黒い目の人たちから迫害を受けた歴史を持っている。

そんな環境下で総理大臣を目指す青い目の女子高生。彼女は総理大臣になるからには全人類を愛することに決めている。しかし、たった1人だけ嫌いな男がいる。そんな彼女に唯一嫌われている黒目の男子高校生。その2人が主人公だ。

面白かった。

あらすじ紹介だけで終わっちゃった。

 

13.「魔術はささやく」宮部みゆき

繋がりがなさそうな女性3人が連続して不審死する。

その謎をなぜか追う、鍵を開けることが得意な高校生。

一見、関係なさそうな描写がすべて繋がってくる

最高!

 

14.「その裁きは死」アンソニーホロヴィッツ

今回もこいつが怪しいんじゃないかと思って読み進め、実際にそいつが犯人だったが、トリックなどは一切わからなかった。

レストランにて、「あんたなんかこのボトルで殴って殺してやる!」と言われた男がその晩、ほんとにボトルで殴られ死亡した事件の犯人を捜す話。

面白かった。

 

 

 15.「マイル81 わるい夢たちのバザール1」スティーブン・キング

短編集の第1巻。10個ほどの話があった。どれも読んだ後げっそりする後味の悪さ。しかもどれも種類の違う後味の悪さで、ただただ嫌な目に遭ったやつや人間不信に陥るものまで多種多様だった。

表題作の「マイル81」はアメリカの交通量の少ないマイル81に停車している人を食べる車の話。いろんな人がその車に食べられていく。どのキャラも簡単に人物紹介のエピソードが描かれることによって、感情移入ではないがもうすでに他人ではなくなる。名前と人物像を知ったちょっとした知り合い、顔見知りの隣人になる。顔は想像するしかないけど。そんな人があっという間に車に食べられる。辛い。終盤には4人家族も登場する。尚更つらい。最後はちょっとした「IT」的な展開となる。面白かった。

 

どの作品にもその前に、キングによるちょっとした制作裏話が書かれている。

バットマンとロビン、激論を交わす」では、認知症気味の父親とレストランで食事をとった後、車で帰宅中に前に割り込まれたため、中指突き立てたらその車の運転手にぶん殴られる話である。そう裏話にも書いてある。大まかな筋をしてなお面白かった。

中指を突き立てた後、そんなことをしなきゃよかったと振り返って後悔する1文がある。その後、前の車から降りたその人物は見るからに人を殴りそうだと1ページにも渡って描写している。こちらとしてはもういっそ早く殴ってくれよとなる。この焦らしがすごいストレスになっていて、かつ怖さに拍車をかけてきた。そしていざ殴るシーンになると、それはまたえらく生々しくエグイぐらいにボコボコにされる。人間には必ず良い面と悪い面があると思うようにしてるし、ライムスター宇多丸も「あんなんでも誰かにとって大切な人」と歌っている。しかし、この殴ってくるやつには絶対良い面なんて無いと思わせて来るし、こんな奴のこと大切な人なんていんのかよってくらい瀕死に追い込んでくる。やばい。やばかった。

ちなみにバットマンとロビンは、主人公親子の関係性を表現しただけである。

 

他にも、近いうちに死ぬことになる人の名前が表れる砂浜を描いた「砂丘」やひどい悪口によって死に追いやる子供の幽霊を描いた「悪ガキ」、町の少女を殺した罪で死刑となった男がもしかしたら無罪かもしれないと疑う保安官を描いた「死」、同じ人生を何度も繰り返す「アフターライフ」が面白かった。

 

砂丘」はこないだ見た志村けんのコントにも通じるところがあった。散々フッといてそっちか!と思わせるコント。なんのこっちゃと思うだろうけど。

盲腸か何かで入院してくるダチョウ倶楽部肥後。そこには老人の志村けんが入院していた。志村は言う、「そのベッドはしょっちゅう人が入れ替わるんだ」と。僕もすぐ退院する予定ですと肥後が答えると、「みんな死んでるんだよ」と志村は言う。ただの盲腸ですよと肥後は答えるも志村は「みんなそう言うんだよ」と。

その後も「お前で13人目だ」や「白い注射器ならいいけど赤い注射器はもう末期だ」などと不吉なことをどんどん告げる。

そんな2人の元に注射を打ちに医者がやってくる。肥後は白い注射器で安心する。

一方、志村の方は赤い注射器を打たれようとしていた。

砂丘」もこんな感じだった。

「死」もこんな感じだったかも。人間には必ず良い面があると思ったら。。。

結論として「マイル81」「砂丘」「死」が面白かった

いくつかネットで無料で読めるらしい。

 

 

終わり!!!

45.「2019年に読んだ本」

2019年に読んだ本 

川上弘美「大きな鳥にさらわれないよう」

カズオ・イシグロの「わたしを離さないで」をさらにファンタジーにさせた感じで、主人公の行く末を見つつ、この世界はどういった感じなのだろうと想像する楽しさがあった。気がする。 

 

②オードリー若林正恭「ナナメに夕暮れ」

ひねくれからの脱却を果たしていた。 

 

長嶋有「私に付け足されるもの」

短編集だった。よかった。気がする。

 

宮沢賢治銀河鉄道の夜

中盤が残されてないからこそ想像力がより膨らまされていろんな作品が作られているんだろう。 

 

スティーブン・キング「11/22/63」

長かった分印象に残ってる。1963年11月22日はケネディ大統領が殺された日。

時は現代。主人公の住む町のバーにある日突然、1958年へと通ずる穴が現れた。そのバーの主人からケネディ暗殺を阻止してくれと頼まれた主人公は本当に過去を変えられるのかをまず実験してみることに。そのことを描いた上巻が面白かった。ケネディ暗殺まで5年もあるため当然何かしら生活の手段を考える必要があって、非常勤講師として生徒との交流や同僚との恋愛を描いた中巻も面白かった。そして下巻は着実に迫ってくるケネディの暗殺に対し、一体だれが犯人なのかを突き止めていくサスペンスでそれも面白かった。タイムトラベル自体にも仕掛けがあって、主人公が最終的に大きな決断を迫られるし、最後のセリフが心にきた。

スティーブン・キングは描写が細かすぎるし登場人物も多くて人間関係複雑だから大変なイメージだけど、割と読みやすかった。ペニーワイズが出てくるITは読むの大変。ずっと怖いし。ペニーワイズが人を殺すまでが長く、じっとりとしていて早く殺してくれよ!となるがたまに失敗するから死なないんかい!とかなる。

 

三田誠広いちご同盟

全然覚えてないけど上手いこと絡んでいくな~と思った気がしなくもない。でも何か不満に覚えた描写もあった気がしなくもない。 

 

⑦倉井眉介「怪物の木こり」

終盤の時系列トリックは良かった。 

 

瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」

これは自分の話だと思ったが、違った。

主人公が親を転々としていく話。4組くらい?どの親も優しかった。

エピローグのある親から描かれた話が一番好きだった。 

 

白石一文「ほかならぬ人へ」

 香水のせい。

 

湊かなえ「花の鎖」

親子三代。

 

⑪金子薫「壺中に天あり獣あり」

巨大な迷路から出れなくなって、そこでホテル経営を始める話。 

 

⑫ナイツ塙宣之「言い訳」

面白かった。 

 

大島真寿美「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」

表紙がいいなと思って買ったら後日直木賞取ってた。

徐々に歌舞伎に人気を取られ始めていた時代に生きた人形浄瑠璃の作者の話。途中で語られる創作論がよかった。目の前にある風景を一つ一つ文字にしていくんだ的な。 

 

恩田陸「祝祭と予感」

蜜蜂と遠雷」の後日談や前日譚など。 

 

⑮ブレンディみかこ「ぼくはイエローでホワイトでちょっとブルー」

よかった。が、中学生にしては出来すぎると思ってしまった。しかし、勉強しよう。 

 

⑯塩田武士「罪の声」

グリコ森永事件を題材にした小説。あまりその事件知らないけども。

事件から数十年経っており、100~150Pまで何も糸口が掴めず正直いつ面白くなるんだろうなとは思った。でもようやく犯人に少しずつ近づいてきたころからは引き込まれ、クライマックスは辛すぎるぜの嵐だった。映画もよかった。

 

 ※敬称略

 

映画はまだ見たシーンが記憶に残るけど、小説は文字しかなく、読んだときに想像した光景もなんとなく思い出すけど映画よりはっきりした映像ではなくモヤモヤしたものばかりなので、本の感想は読んだ直後に言語化しないと意味がないなとこれを書いて思った。忘れていたとしても血肉にはなってることを願いつつ、さっさと感想書いた方がいい。

 

 

44.「キングオブコント2020の感想」

コントの感想だけ

 

滝音

コンビ自体初見。

黙々とラーメンを食べる男に対して、気前よく接客する店員。正直、飲食店で店員に絡まれるのはあまり好みではないけれど、このコントの店員はそこまで嫌悪するものではなくておすすめの食べ方紹介してくれたりと親切だった。それをずっと無視して食べるお客。それでも健気に話しかける店員に段々と感情移入して、逆に客に対しては少しは会話しろよと気持ちが募ってきたところで「大食い選手権なのよ」はめちゃくちゃ面白かった。確かに食べるペースが速いし、話してる余裕なんて尚更ない。この序盤1分ぐらいの様子が一気に納得できるものに変わって上手い設定だなと思った。その後も店員の行動や発言に独特なワードでツッコむのは面白かった。ただ、会話だけが繰り広げられてて、こんな広いステージの中、中央で喋るだけなのはもったいないなと思ってしまった。大食いなのになんでこんな喋ってるんだろうというか、もっと大食い中ならではのドタバタが見たかったかも。時間制限もあるだろうから、より早くより多く喰いたい客とちゃんと接客したい店員のバトルが見たかった気がしなくもない。独特なワード突っ込みを織り交ぜたバトル主軸のコントが見たかったかも。でも面白かった。

 

GAG

何回か見た。

何回か見たけどやっぱり面白かった。

河川敷?かどこかでフルートの練習をしていたら、たまたま通りかかった中島美嘉に見てもらうことになり演奏すると、フライを取りにきた外野手と中島美嘉がぶつかって精神が入れ替わってしまう。以降、フルートを吹くたびに誰かと誰か、もしくは何かが入れ替わるコント。

いつもは3分ぐらいで終わるけど、今回は5分でいつもより多くの展開が見れた。よりシャッフルされて混沌してた。どうシャッフルされるのかが楽しみなんだけども、シャッフルされるだけだったのが物足りなさを感じてしまったかも。シャッフルという主軸以外の笑いが他2人はシャフルに気付かないぐらいで、セリフのやり取りなどの笑いがもうちょっとあるとよかったかも。てぐすがいいのか悪いのかはよくわかんない。でもまあ面白かった。

 

ロングコートダディ

筋肉隆々の先輩に仕事の指導を受ける新人のコント。

「筋肉すごいですね」「頭悪いからさ」のやり取り好き。頭悪いゆえに端的に説明しようと心がけているからこそ細かい説明なんてせず答えのみ伝えたのか、自分の中じゃ筋が通っているが相手にはそれだけでは伝わらないことを想像できるほど頭良くないからなのか、みたいな想像も出来ちゃう井上さんのキャラの良さ。その後も「段ボール初めてか?」のやり取りも好き。会話していくことで冒頭の「頭悪いからさ」の真相がわかり、オチでだからあの筋肉なのかとコント全体がより面白くなる感じもよかった。さらに新人に「頭悪いですね」とストレートに言われてもどこまでも優しい井上さんがいい。また、謎の上げ下ろしの作業にたっぷりと時間を使うのもすごい。強いて言えば井上さんを最後の最後にまた見たかった。が、面白かった。

 

空気階段

霊媒師が依頼人のおばあちゃんの霊を取り込もうとしたらラジオの周波数と合ってしまって、そのままラジオを再生してしまうコント。名前も見た目も口調もどれも胡散臭く(タンスのコントの口調というか瀬川瑛子のモノマネをどうしてもキングオブコントでやりたかったのかな)、いざ霊を降ろすとコミュニティFMのラジオを受信したとか言ってよくわかんない会話を始めて怪しさ満点だが、ラジコで再生はじめたらマジで受信してたことが分かったのが面白かった。そこからどんどん霊を降ろそうとするもひたすらラジオだけが再生され、一瞬おばあちゃんが出るも取り逃がしてしまったり、実は霊媒師がそのラジオのリスナーだったと分かったり、いろんな要素が絡み合ってくのがよかった。面白かった。

 

ジャルジャル

競艇の会場で歌うことになり、そこではたくさんの野次が飛んでくるだろうからそれに慣れるために今から練習しようというコント。野次ワクチンという言葉で一発でわからせて来るのが凄い。野次もいろんなパターンがあって面白いし、終盤になるとなぜかほんとに社長としては喋らないでくれみたいな気持ちが生まれ、裏切らないでくれと、「野次に決まってるやん」のセリフが聞きたいんだと思ってたからこそ最後まで野次に徹底してくれたのがよかった。それに短い時間の中で「知らん」「誰やねん」「下手くそ」の流れを作るのもすごいし、短時間でいろんなパターンをこちらに覚えさせて笑いにつなげてるのがめちゃくちゃすごい。リズミカルでずっと聞きたくなるし、どんどんサイクルが短くなり畳みかけてくるから笑いが増幅するしで、これ以前の4組も面白かったけど爆発力が凄かった。面白い

 

・ザ・ギース

長年お世話になった先輩を見送るためにハープ演奏し、そのお返しとして切り絵するコント。キングオブコントでハープ演奏に切り絵も出来てやりたいこと出来て良かったなあみたいな気持ちになった。いつの間にか出場者最年長になっててびっくり。そしてコント終わりに一番かましてたのが高佐だったのも面白かった。でもハープの登場が全然受けてないの衝撃だし、逆に笑った。いろんなとこで小出しにしてたハープとか切り絵がついにきた!と思ったのに。ハープ情報もやや受けでだめなのかあと思った。まあでも演奏始めたら受け始めて良かった。優勝はしたいんだろうけど、やりたいことやれて満足したのでは。面白かった。

 

うるとらブギーズ

陶芸家が気に入らない壺を割っていくが、いいと思ったの壺も割ってしまうコント。 

リズムよく壺を割っていくのがいいし、壺を「いい!」と評価した後にも割ってしまってそれに気付く演技が上手かった。いいと思った壺を割らないようにする工夫が多種多様でよかった。二人の演技力だけで持っていくし、実物が無くても見てる人の想像力を働かせるのがコントの一種の良さでもあるけどどうせならほんとに壺を割ってほしかった感がある。でも面白かった。

 

ニッポンの社長

ケンタウロスの高校生がそのケンタウロスであることの悩みを吐露していたら、顔だけ牛の女性と出会って恋に落ちるコント。吐露も部分だけ見ると面白いけどもどう展開していくかわからなくて、顔だけ牛女性が出てきたら曲が流れ始め、ひたすら見つめ合うところで恋には落ちたんだろうとなるけど、再びどう展開するんだろうと引き付けられてからの歌い始めるという流れが面白かった。見つめ合う時間の長さがよかった。高校生のパートが終わって女性のパートに移ると、牛の叫びしかできないのも面白いし、その姿を見て幻滅するのかと思いきや全然そうではなくてそのままキス。それにょって女性が歌えるようになるが高校生は馬の叫びしかできなくなるのもよかった。流れがいい。ただ、馬の叫びで終わってしまったのが少しだけ物足りなさがあったかも。馬の叫びを見て、女性はどう思ったのかが見たかったかも。いらないかな。面白かった。

 

・ニューヨーク

披露宴にて新郎の友人まさおが練習してきたという一芸を見せるが、それが行き過ぎたパフォーマンスだったコント。最初に楽器の空演奏でザ・ギースが本当にハープ演奏をしてしまった以上ウケも評価も微妙になるんじゃないかと思ったけど、巨大な岩が出てきたぐらいからめちゃくちゃ面白かった。女子十二楽坊の曲にのせて巨大な岩を口で持ったり、インパクトを腹やこめかみに押し付けたりしてる時に、前半にフッてた「この後奥さんの友達がハッピーサマーウエディングやる」や「たった2か月で習得したの?」が効いてきて最高に笑った。そしてなによりまさおって名前がよかった。こんなことをやりそうな謎の説得力があった。演芸の合間合間のセリフも面白い。変な移動方法や本番はこれからですと言って巨大な岩運んできたり。本筋の演劇がどんどんエスカレートしつつ、合間も面白くて好きだった。当然ツッコミもいい。最後の最後の千羽鶴も笑った。面白かった。

 

ジャングルポケット

 男に会社の機密情報を喋らすために娘の情報を言って脅すが、男の知らない情報まで出てくるコント。面白いけど審査員のコメントにあるように確かに置いてかれた感がある。情報も早々に追えなくなったし、リズミカルで笑うタイミングもわかるけど、おたけのフリの部分がそもそもあまり聞き取れない時があって、次第にこいつらの目的もわからなくなり笑いどころが分からなくなった。男の知らない情報が出てくるタイミングも早かったかもしれない。冒頭はもう少し丁寧にいってほしかったかも。最初からテンポ早めでそのまま最後まで行ってしまった感じ。序盤ゆっくりからどんどんエスカレートしてほしかったかも。序盤にもっと脅すために娘の情報を言ってることを描いてほしかった。中盤に会社の情報を吐けと改めて言うけど、ほんとに脅すつもりあるのかと思ってしまった。あくまで脅すために言ってる情報がそいつよりも知りすぎている面白なのに、その情報単体の面白さがメインになってしまったのがよくなかったのかも。でも面白かった。

 

空気階段

 定時制高校で授業中の手紙のやり取りによって恋愛を育んでいくコント。このあらすじだと笑いの部分が分かんないけど、もぐらのキャラがやばかった。春の訪れを感じさせるようなMから始まり、綺麗な女装をしているかたまりが後ろの席の男に恋をしているとナレーションで説明があって登場するもぐらのインパクトがやばすぎる。何言ってるのか1ミリも分からない。その後、手紙のやり取りがあって、その手紙もナレーションされるのだが、もぐらのナレーションは手紙でも何言ってるのか分からない。何いってるのか分からないけどめちゃくちゃ笑える。すごい。そして次第にもぐらの言ってることが分かってくる。すごい。もぐらがトイレに行く下りもやばい。こんなやばい奴だけど、かたまりの熱が冷めることは無い。ニッポンの社長のコントもだけど、はたから見たらやばいけども本人にとっては何もやばくなく、そういったものというか普通に好きなんだと描くコントが多くなった気がする。だとしたらその変な奴を見て笑ってるおれらはどうなんだ。しかし、そもそもコントなんだから笑ってもいいのか。あくまでそのキャラは変とは思わないキャラを描くことで多様性を描き、あらゆる人を肯定している。ただそれはある意味悪意を巧妙に隠している気もする。わからん。とりあえず、もぐらのセリフが意味わからないのに笑えてすごかった。でも最後に1回だけもぐらのセリフで別に滑りはしてないけど笑いに繋がってないのがあって、それがもったいなかったかも。もぐらは終始何を言ってるのか分からないキャラなのに、なぜか次は何を言うんだろうと期待が高まっていて、だからこそ最後のオチ前のセリフで笑えなかったのがもったいない気がした。でも面白かった。

 

・ニューヨーク

髪を切りすぎてしまってそれを隠すために帽子をしていたヤクザの子分が、兄貴に帽子取ってみろよと言われたものの取るタイミングを見失って取り辛くなってしまい、お互いのプライドを守るために言い争うコント。しょうもないことをアウトレイジ風にやってて面白かった。こういうことあるし。お互いが最後まで譲らないのもいいし、舞台奥の日本刀を使うのもいい。舞台にあるものを無駄なく使うシチュエーションコント精神みたいな感じでいいし、実際に発砲するのもよかった。段々とエスカレートする感じもいい。いいしか言えない。面白かった。

 

ジャルジャル

 夜、とある会社に窃盗に入ったものの、子分がなぜかタンバリンを持っててバレないように頑張るコント。正直、面白けど優勝するか微妙なコントまた持ってきたのかよと思った。面白いけど。いくつものパターンを作るコントがいいと思うけど、やっぱりキングオブコントで何かしらぶっこみたい気持ちがあるのかな。ハープ演奏しかり発砲しかり。最後、子分を残して逃げようとするもやっぱりかわいいから一緒に逃げようと戻ってくるのがよかった。面白かった。

 

総じて面白かった。

43.「お腹が冷える季節」

季節は秋から冬に差し掛かり、1日の中での寒暖差が激しくなった。朝夜は寒いのに日中は温かい。1日に8°も温度の変化があって会社に行く恰好にも迷う。駅に向かうまでは寒いのに電車内は暑いし、でも会社の席はエアコンの冷たい風が直で当たる場所で冷えやすい。気分転換でたまに外へ散歩すると日光が当たり暖かい。なんだこれは。

こんなときに勢いよく冷たい飲み物を飲んでしまうと途端におなかを下す。そうなるとその後にどんだけ温かい飲み物をちょびちょびと飲んだとしてももう遅い。お腹が温まることは無く冷えたままで、ひたすらお腹から何かを搾り取るような音が聞こえ、次第に耐えられなくなってトイレに駆け込むことになる。トイレでの格闘を終えて帰ってきてもすぐにまたお腹がグルグルとなり、またトイレに行きたくなる。でもあいつまたトイレ行くのかよという周りの目が気になってしまって少し耐えてみる。しかし、お腹が鳴りやむことはない。すると今度はその音が周りに聞こえてしまってるんじゃないかとビクビクし始める。たぶん聞こえているんだろう。だって、普段から他の人のお腹が鳴ってる音聞こえてるんだもの。でも普段聞くそれはそろそろお昼頃だもんなと可愛く思えるものだが、今、自分が鳴らしている音はギュルルルルと何か断末魔だったり、雷が落ちたようなものでそこに可愛さなど微塵もない。そんな音を聞かれてしまってるんじゃないかという恥ずかしさとやっぱり猛烈な便意に襲われて10分前にトイレに行ったにもかかわらず行くことになる。

何年も生きているが今だ対策は練られてない。温かい飲み物をちょびちょびと飲むぐらいだ。一度下してしまったらビオフェルミンを飲む。飲むことでお腹を下しているのに予防策も回復策も飲むことでしか叶わない。

しかも問題なのはこれは季節関わらず襲ってくることだ。冒頭秋から冬に差し掛かりとあり、この季節特有のものみたいな書きっぷりだが、夏は暑いから冷たい飲み物を飲むことでお腹を下し、冬は単純に寒くてお腹を冷やす。春は秋と一緒で寒暖差が激しく、ちょっと暑いかなと油断してつい冷たい飲み物をグビっと飲んでしまいお腹を下す。もう嫌だ。

ちょうどいい季節はないのか。お腹を下さずに済むちょうどいい季節。最近は夏か冬か夏冬の混合の3つの季節で回っている気がする。極端な暑さと極端な寒さと暑さ寒さの差が極端に激しい日。ちょうどいい季節が欲しい。

小学生時代はまだ過ごしやすかった気がする。今よりも夏は暑くなく、逆もまた然り。でも今は夏はめちゃくちゃ暑いしそしてその逆もまた然り。これも温暖化の影響なのか。よくわかんないけど。まあでもお腹を下しやすいこの身体と根気よく付き合っていくしかない。日本に住む限り季節は移ろいでいくし、外国へ行こうとも今は行きづらいし。注意してちょびちょびと飲むことにする。グビグビ飲んでいいのはビールだけ。ああ、友達と飲みに行きたい。

42.「隣山田」

二宮        「北千住は千住の北にあるから北千住。西日暮里は日暮里の西にあるから西日暮里。てことでお前は山田の隣の席だから隣山田な」

木島        「なんでだよ!嫌だよ!」

二宮        「お前が新しいあだ名欲しいって言ったんじゃねえか」

木島        「だとしても他にもっとあるだろ!なんだ山田の隣だから隣山田って!大体席替えしたらどうすんだよ!」

二宮        「山田の隣になることを祈るんだな」

木島        「山田固定かよ!」

二宮        「コロコロ変わるのは面倒だろ?」

木島        「そうだけどそうじゃなくて!そもそも隣ってなんだよ!北千住理論だと北とかだろ!」

二宮        「方角なんてわかるわけねえだろ」

木島        「じゃあ右とかでいいだろ右山田とかで」

二宮        「じゃあ右山田で」

木島        「嫌に決まってんだろ!なんだ右山田って!」

二宮        「お前が言ったんだろ!」

木島        「そもそもナントカ山田が嫌なんだよ!おれは木島なんだからそっから考えろよ!」

二宮        「おい!山田が可哀そうだろ!あいつもうすぐ転校すんだぞ!」

木島        「だからなんだよ知らねえよ!」

二宮        「山田のことを忘れたくねえんだよ」

木島        「俺を利用すんなよ!」

二宮        「分かってくれよ!」

木島        「全然わかんない。俺が可哀そう」

二宮        「だったらお前が山田になってくれ」

木島        「は?どういうこと」

二宮        「山田襲名しろよ」

木島        「なんで襲名すんだよ。あだ名欲しいって言ったら苗字変えさせられるってなんだよ!」

二宮        「2代目山田」

木島        「おい、聞いてんのか」

二宮        「3代目は俺な」

木島        「襲名したいのかよ、だったらお前が2代目でいいよ」

二宮        「いいの!?」

木島        「なんで喜んでんだよ」

二宮        「2代目だからにっちゃんと呼んでくれ」

木島        「お前のあだ名が決まっちゃってんじゃん。苗字二宮だからいい感じになってんじゃん」

二宮        「それでお前はどうすんだ?」

木島        「どうにもなってないだろ」

二宮        「隣山田にすんのか、それとも元々の木島りおんぐファイナルステージか」

木島        「なんだその選択肢は」

二宮        「どっちがいいんだよ」

木島        「・・・元々のがいい」

二宮        「ほんとに言ってんのかよ」

 

41.「星間旅行」

星間旅行が可能となってから、人々の間でモールス信号が流行し始めた。

光によるモールス信号が遠くの星と交信可能な唯一の人類共通言語であり、その星に到着したであろう未来の自分に向かって発信するメッセージ、あるいは、目標の惑星に到着したときに過去の自分から届くメッセージという一種のタイムカプセルのような神秘性に人々はロマンを感じたからである。

 

宇宙船自体、日本に離着陸可能な基地は種子島の1か所のみで世界的に見てもまだまだ少なく、またモールス信号も実験的に行ったのが成功しただけだったのだが、その事実が星間旅行の魅力を無尽蔵に膨らませ、いつか自分もとモールス信号を覚えようとする人が増え、次第には人々にとってモールス信号は当たり前の存在となっていった。そして人々は宇宙に発信するモールス信号のことを、宇宙を超えて届くタイムカプセルということからスペースカプセルと愛着を持って呼ぶようになった。

 

ここにまた一人、星間旅行を計画する男がいた。

その男は妻と共に4光年先の惑星へ向かう宇宙旅行を計画しており、この時代ではいたって普通の宇宙旅行ではあるが、それでも世間からの注目が集まっていた。

それはスペースカプセルの内容を公募すると言ったからだ。

タイムカプセルといえば元来、未来の自分へのメッセージを送るもので、スペースカプセルも大概未来の自分へのメッセージとして利用していた。

だがこの男はそれを公募すると発表した。その発言はニュースに取り上げられ、瞬く間に世間へ拡がり人々を大いに賑わせた。

 

応募条件は1つ。

特設サイトから志望動機を送るだけだった。

メッセージの内容は問わず、年齢制限などもない。ただ熱意を送ってくれとのこと。期限は1週間以内。文字数制限もなし。

 

テレビやネットではすぐさま志望動機の戦略が練られた。文字数は多い方がいいのか短い方がいいのか。自分の生い立ちから話すべきという人もいれば、そもそもこんな公募なんて無いという人も多い。また、やはりこのチャンスをつかもうとする人が多いことからサイトのアクセス数が多く、サーバーダウンすることもしばしばあった。このことから金持ちが作ったサイトならばサーバも強固であり、よって偽物であるという論説も生まれ、世間は混乱に陥ったまま、期限がきた。

 

結果としてこのサイトは本物でありながら、中々サイトに繋がらないということから応募総数は1万弱となった。

男はまた1週間後に合格者を発表すると言った。

ここでまた世間では応募できなかった落胆の声と共に1つの論争が巻き起こった。一体合格者は何名なのか。1名なのか、応募者全員なのか。

そこから発展してそもそも公募すると言った目的はなんなのか。その目的は合格者発表と共に語られた。

 

合格者は3名だった。

1人目は公立の小学校に通う4年生の少年。2人目は20代前半のこれから結婚を控えている女性。3人目は会社勤めの50代の男性。世代も職種も性別もバラバラだった。

「いろんな世代の人と人類史上最も遠い環境の中での交流をしたいんですよ」

それが彼が言った今回公募した理由だった。応募者を世代に分けた後、何回かくじ引きを行って決めたそうだ。

 

 

今回、星間旅行で行く星は地球から4光年先の惑星である。

現状、開発された宇宙船の速度は高速の2分の1の速度で進むため、目的の惑星につくのは8年後である。また、目的の惑星についたとしても着陸はせずに惑星の周りを周回するだけで、集会後すぐに地球へと帰還する。滞在時間は大体1時間。星間旅行という名前ではあるが、そんなもんである。

 

いよいよ星間旅行へ旅立つ日がきた。

彼ら夫婦は大勢の人に見送られた。搭乗するする際、星間旅行を計画した夫は満面の笑みで見送る客に応えていた。妻も夫と同じく満面の笑みで手を振っていた。しかし、いざ乗り込むとき、その一瞬だけ妻の顔が若干曇ったように見えた。

出ロケットは何事もなく無事に発射された。

 

4年後、今度はスペースカプセルを送る時期がきた。

3人のメッセンジャー(合格者は人々からこう呼ばれた)は、1度だけ夫婦と話す機会があり、内容については自由だと告げられた。だが、惑星への滞在時間の短さから送るメッセージは1人当たり5文字までと制限された。幸い濁点・半濁点は文字数制限には含まれない。

人々の注目はやはりどんなメッセージを送るかに集まった。少年と男性が内容を公表した。少年が送るメッセージは「どうですか」。一方、男性は「おげんきで」。

賛否両論であった。なんだそれはと言うものがいたり、そんなもんだろと言うものがいたり。その声の傍ら、女性に対してメッセージ内容を公表しろという声も高まっていた。

地球からメッセージを送る場合、人工衛星に搭載された鏡で太陽光を反射させて行う。モールス信号は波長の長短で文字を表すため、鏡の表面には開閉式のシャッターが付けられ、その開閉によって目的の惑星に対して太陽の光を反射の長さを調整してモールス信号を送る。信号は惑星に向かって送られるため、地上からその内容はわからない。

惑星に到着した宇宙船から地球にモールス信号を送るシステムも同様だった。そのため、宇宙船からのモールス信号は地上からでも見えることから、女性のメッセンジャーが送る内容さえ分かれば地上に住む人も今回のどんなやり取りが行われたかが分かるのだった。しかし、メッセージの内容の公表はメッセンジャーの自由とされていたため、彼女は最後まで公表しなかった。

 

それから8年後、惑星からメッセージがきた。

メッセージは10代少年、20代女性、50代男性の順で送ったため、返信もその順でくる。4光年先の惑星から送られてきたメッセージは次の通りだった。

「すばらしい」「だれなんだ」「わからない」

メッセンジャー並びに人々は困惑した。「すばらしい」は少年の返答としてまず間違いない。「わからない」も男性の返答として間違いはないだろう。しかし、まずここに1つ目の疑問がある。「おげんきで」という質問に対して「わからない」という返答は、つまり何か問題があったのではないか。宇宙船に何かトラブルがあって、帰還困難に陥ってしまったのかもしれない。もしくは宇宙人と遭遇して攻撃にでもあったのか。

けれども少年の「どうですか」という質問には「すばらしい」と返答があった。トラブルに陥った人間がそんな回答をするだろうか。1つ目と3つ目のメッセージを送る間には5分も時間はない。そんな短時間でトラブルに陥ることはあるだろうか。

 

あるかもしれない。

星間旅行もまだまだ未熟な技術で予期せぬトラブルはあるだろう。

しかし、2つ目の疑問がそのトラブルの内容の予測をより困難にさせた。一体「だれなんだ」というメッセージは誰に向けたものなのか。メッセンジャーは当然、彼らが選抜している。それに何度も会合したはずだ。そのメッセンジャーからのメッセージに対して「だれなんだ」とはどういうことか。もしや宇宙船内に知らない人がいたのだろうか。

 

星間旅行の間、宇宙船はすべて自動操縦で動く。そのため乗船するのは旅行者のみで、今回でいうとたった2人である。惑星に向かう行きと帰り合わせて8年間はコールドスリープで過ごす。コールドスリープの機材は人数分しかない。たった二人きりの世界。

もし宇宙船内に侵入者がいればなす術はない。コールドスリープ中に何かをすることはたやすいだろうし、そもそも旅行者にとっては自分たち以外乗船していないはずなので油断しきっており、侵入さえすればほぼ侵入者の目的がなんにせよ達成するだろう。しかし、物事にはタイミングというものがある。なぜ2通目のスペースカプセルを送る直前で異変が起きたのか。何か異変を起こすなら1通目からだろう。こういった謎がますます謎を迷宮入りにさせた。

 

再び4年後。

いよいよ星間旅行を終えて地球にあの夫婦が帰還するときがきた。人々は4年前のメッセージの真相が解き明かされると待望のまなざしで宇宙船の着陸を待っている。メッセンジャーの3人もとい人類は、星間旅行に旅立ったあの日から16歳年齢を重ねているが、そのまなざしはあの頃の輝きのままであった。

ついに宇宙船から人が出てきた。最初に出てきたのは妻の方だった。コールドスリープで過ごしていたから容姿に一切変わりはなかった。だが、出発時よりも明るく見える。迎える観衆に大きく手を振るその表情は満面の笑みだ。次いで夫が出てきた。その表情や雰囲気は妻に比べて暗くげっそりしているように見える。夫の大衆を見つめる目は、まるで何かに怯えているようだ。二人は搭乗口から降りた後すぐさま車に乗ってしまい、そして公の前に姿を現したのはこれで最後だった。

 

後年、メッセンジャーの3人は夫婦と面会したらしいとの情報が出回った。

少年には(もうすでに20代後半ではあるが)、星間旅行がいかに素晴らしかったかを語ったらしい。50代だった男性にはやはり星間旅行には怖さもあり、その恐怖から「おげんきで」に対して「わからない」との返答をしたとのこと。そして女性との面会の内容は、またしても謎に包まれていた。ただ星間旅行を計画した男は面会後、陰鬱そうであり、その日から持病が悪化して1年以内には亡くなったそうだ。一方、女性2人はその後も度々交流しており、その関係は晩年まで続いたそうだ。

一体、女性がどんなメッセージを送ったのか、男はなぜ星間旅行後に衰弱してしまったのか、その謎は男が死んだことで人々も徐々に興味が薄れていった。

 

しかし、1人だけ気になっている男がいた。

この記事を書く私だ。スペースカプセルの歴史を振り返る企画で記事を書くことになり、いろいろと調査を進めていく中でスペースカプセル誕生して間もないころに起きたこの事件の真相を知りたくなった。

 

私はすでに齢70となった当時メッセンジャーの彼女に連絡を取った。

場合によっては公言禁止されることも辞さない構えでいると、彼女からは別に公言してもいいときた。50年近くも真相が明かされなかったというのになぜ急にと思い理由を聞く。こういった場合はありがたく聞くべきで、わざわざ理由を聞くのは場合によっては取材の許可が下りないこともあるが、彼女からは「すべて解決したから」と返信がきた。

 

対面で話す機会が訪れた。

彼女曰く、すべては星間旅行を計画したところから始まったらしい。

 

星間旅行を計画した男は、大学在学中に製作したオンラインゲームが世間からの評判を集め、在学中ながらも起業した。会社ではゲーム制作を主に行いながら徐々に事業を拡大し、30代半ばでは海外進出も果たした。その後紆余曲折ありながらも概ね順風満帆に過ごした。そして50代となり、男は遂に人生に満足しきってしまった。

やりたいことをやり尽くし、行きたいとこにも行き尽くし、人生の目標も潰えてしまった。男は考えた。いっそ華々しく死んでしまおうかと。

その時目を付けたのは当時開発されたばかりのスペースカプセルだった。

カプセルの中身を公募することで世界中から注目が集まったまま、目的地の惑星で死ぬことでその時点で地球から一番離れたところで死んだ人物として記憶にも記録にも残るだろうと。

そのことを妻に告げるとやはり賛同してくれた。

結婚して30年以上。時には口論するがいつだって賛同してくれる。だからこそ妻と最期も一緒になりたかった。

 

そんなことを夫は考えていたのだろうと奥様は言ったそうだ。

奥様は無論死にたくなかった。内心ではそう思ってたらしい。だが夫はいつだって意見を聞いてくれず、だからもう意見することは諦め、違う計画を立て始めた。星間旅行自体はとても楽しみだったが、いかにして生きて帰るか。これが第一目標となった。

 

メッセンジャーの選出は基本的に男が行った。一度だけ女性の選出について、何人か候補を出されて誰がいいかと聞かれ、その時に選出されたのがメッセンジャーの彼女だった。

 

「なぜあなたが選ばれたか理由は聞きましたか?」

「私が結婚を控えていたからって」

 

一度だけあった面会後、奥様に個人的に呼ばれたそうだ。

「あなたにはいつだって何かを選択する自由がある。そのうえで協力してほしい。夫は星間旅行で死のうとしてるんだけど、私は死にたくないの」

と、奥様に言われたらしい。

奥様はずっと夫に従って生きてきたが、ここにきて自分の自由に生きたいと思ったらしく、結婚してもあなたはいつだって自由に生きられると伝えたかったからだという。

メッセンジャーの彼女は喜んで協力することを告げたそうだ。

そこからたった2人での生存戦略が始まった。

目的地の惑星に到着してからいかにして生き延びるか。どうやら男は薬を飲んで死のうとするらしく、だったらその薬を飲むことを拒否すればいいという案が出たが、死体と4年も一緒にいることは嫌だったため、男が死ぬことも止めることが目的となった。

あらゆるアイデアを出したのち、ついに思いついたのがとあるメッセージをスペースカプセルで送ることだった。

その内容とは「つまふりん」

お前の妻が不倫をしているという内容だった。

男はそのメッセージを受け取った瞬間、目を丸めて妻を見たそうだ。その時の妻は満面の笑みだった。男にとって、妻の不倫は本当なのか、おれは不倫されてしまう奴なのか、50歳も超えて不倫するのか、誰と不倫しているのか、そもそもこのメッセンジャーはなぜ妻の不倫を知っているのか。もうすぐ死のうとしており、非常に穏やかだった気持ちでいたのが急にざわついてきた。あらゆる考えがまるで走馬灯のように脳内を駆け巡った。どんな走馬灯を見るのか楽しみにしていたが、こんな走馬灯は望んでない。

 

スペースカプセルは入力作業を行えば、あとは機会が自動的にモールス信号に変換してメッセージを送ってくれる。男は思わず「だれなんだ」と入力してしまった。不倫相手は誰なのか、そもそもお前は誰なんだという考えが膨らみすぎて。

 

3人目のメッセンジャーの「おげんきで」という内容に「わからない」と男が回答したのにも、本来死ぬつもりではあったが、どうしても1つ解決しておきたい謎があり、この先どうなるか本当に分からなかったためこの内容となった。

 

惑星からスペースカプセルを送ったあと、男は妻に聞いた「どういうことなんだ」と。

しかし、妻は依然として「地球に帰ったらすべて答えてあげる」としか言わなかった。

男は食い下がるも、妻がコールドスリープに入ってしまったのでもうどうすることも出来ず、しぶしぶと自身もコールドスリープに入った。

 

地球に帰還し、コールドスリープから目覚めた後も男はすぐに、最終的な目標が達成できなかったことと、妻の不倫が本当なのか、その2つに悩まされた。

そしてすぐさまメッセンジャーの彼女を呼び寄せた。

そして男にとって衝撃的なことがそこで告げられた。

不倫なんてものは嘘だった。

妻は別に死にたくなく、また男にも死んでほしくなかったためについた嘘だった。

地球からこんなにも遠い所へ行けるのに、すぐ隣にいる人の考えすらなにもわからないのか。

男はきっとそれに悩んで死ぬことはなくなるだろうとの算段だった。

結果、それは見事に成功した。

全てを得てきたはずだったが、最後に妻からの愛を失った男はそのまま衰弱し、近いうちに亡くなった。

 

これが真相らしい。

メッセンジャーの彼女には記事にするにはそれなりに時間がかかることを告げて別れた。

今ここに書いてあるのもメモを乱雑にまとめただけだ。後日、またまとめよう。

私はゆっくり寝ることにした。