試行錯誤ブログ

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40.「小突き」

1.

突然、背中を小突かれた。

会社から帰宅途中の電車に揺られている中での出来事だった。

電車内は、席は埋まってはいるが、立っている人はまばらで、おれは吊革に捕まってスマホでゲームをしていた。初夏の夕暮れ時、仕事の疲れと共に暖かな空気に眠気を誘われて、半ばウトウトしていた。そんなすっかり安心しきっていた時に、不意に背中を小突かれると人はどうなるのか。

ただただ怖い。全身に鳥肌が立つのを感じた。

小突かれた理由はわからない。

座席の前に陣取っていたために、通る邪魔をしていたかなと思ったけど、リュックサックはちゃんと前に抱えていたし、割と席側に寄っていたから邪魔はしてないはずだった。

なので、咄嗟に思ったのは知り合いに小突かれたのかなということだ。というか知り合いであってほしかった。電車の中で変なやつなんかに絡まれたくない。そんなことを願いながら振り返ると、そこにはおじさんがいた。知らない人だ。しかも笑ってる。ニコニコとしながらこちらを見ている。なおさら怖い。電車内で知らない人に小突かれるのはこんなに怖かったのか。今まで会ってきた人のことを走馬灯のように思い浮かべたが、目の前の人物に会った記憶はなかった。少し肌寒くなってきた。

 

2.

セールとはすなわち、戦争です。

始まりの合図とともに、売り場へと駆ける我が同胞でありライバルたち。皆の目を見ると、いかにして真っ先に売り場へ行くかしか考えていないみたい。いつもは譲り合いの精神を持ちつつも、その時だけは我が我がと他人を押しつぶしてまで目的地へと突っ走る。でも、目的地に1番に着いたところで意味はない。だってそこからが本当の勝負の始まり。どの商品が一番新鮮で美味しいのか見極めなければ。そしてその見極めをいき迅速に行えるか。例え1番に着いたとしても、うかうかしているとすぐに良い商品はライバルに持ってかれる。逆に、遅くても良い商品を見抜きさえすればいくらでもチャンスは転がっている。

セールで勝つとは、商品売り場への最短ルートを割り出す判断力に行動力、より良い商品を見極める審美眼が重要なんです。そしてなにより、転がってきたチャンスを逃さないこと。

今日は高校時代の友達と久しぶりにランチを共にしました。久しぶりゆえに少々はしゃいでしまい、疲れがたまってます。これではこの後に行こうとしているスーパーのセールに勝つことはできません。だからなるべく体力回復するために、帰りの電車では座りたかったです。でも空いてない。

そんなことを思っていた矢先、近くの席が空きました。最寄りの駅に着いたためにおじさんが立ったみたい。でも、そのおじさんの様子がどこかおかしくて、近くに立っていた若いサラリーマンの元へと向かってます。そしてその若者の背中を小突きました。暴力現場です。でも、おじさんは笑顔。知り合いなのかと思ったら、若者はてんぱっている。電車内は騒然。一方、おじさんはしきりに先ほど自分が座っていた席をアピールしてる。どうやら席に座ってよということみたい。対して若いサラリーマンは、ひたすら首を縦に振っている。なにしてんだあれ。なんでそんなに頷いてんだ。感謝を伝えてんのかな。でも座る気はないみたい。もったいない。こちとらめちゃくちゃ座りたいのに。扉の閉まる音がしたので、おじさんは去りました。若いサラリーマンは未だに今あったことに驚いており、どうやら座る気はないみたい。この空いてる席がもったいない。だから私は座ることにしました。だって座れるチャンスだったんだもの。

 

3.

「ねえねえ、あのおじさんが急にあのサラリーマンのこと小突いたんだけど」

「え?小突く?どういうこと?暴力?」

「いや、指先で背中をつついたって感じ。でも強めだったから小突くって方がニュアンス的にはあってたかも」

「ああ、でもなんで小突いたの?」

「わかんない」

「あ、なんか席譲ってない?譲ってるぽいよね?」

「ほんとだ!譲ってるっぽい。」

「なんで譲ってんの?」

「わかんない」

「譲られてる人も頷きまくってるけど全然座んないね」

「ね」

「なんで?」

「わかんない」

「あれ、おばさんが座っちゃったよ! なんで?」

「わかんないよ。ていうかさあ、さっきから私に聞きすぎじゃない?私が答えを知ってると思ってんの?」

「え、なんで怒ってるの?」

「怒ってはないよ!」

「でも怒ってるじゃん」

「なんでって聞かれるのが嫌なだけ」

「なんで?」

「ほらまた言った」

「これはほんとに気になって」

「じゃあ今までのはなんだったの」

「なんでしょう?」

「クイズ出さないでよ!」

「そもそもなんでこんな感じになってるんだっけ?」

「え? えーっと、あ、あそこでなんか小突かれてる人がいたんだよ。もういないけど」

「ふ~ん」

「もういいやこの話」

 

4.

「小突き」

この言葉を聞いた途端、血が疼いてきた。日常生活においてこんな言葉使うわけがない。ということはやつがこの車両にいるのかもしれない。

名高い万引き犯「京成小突き野郎」が!

やつを直接見たことはないが、電車内でスリにあわれた方々の証言を聞くに、いずれも「そういえば今日背中を小突かれた」と同様の経験に会っていた。また、京成線での被害が多いことから、警察内部ではいつしか「京成小突き野郎」という名称がついた。

やつの手口として判明しているのは、後ろのポケットやバックからはみ出ている財布を取ると同時に背中を小突くこと。そういえば一度、小突いている現場を生で見たことある。その時も「小突き」という言葉がぴったりなぐらいに小突いていた。その現場を目撃した瞬間にやつを追っかけたが、その時は逃してしまった。

今回は女子高生がたまたま会話していたのを聞いただけだが、女子高生が小突きとしか表現できないということは、ほぼ奴で間違いないだろう。

それにしてもまさかこんな夕方の人が少ない時間帯で行うとは。

我々も随分とまた舐められたものである。しかし、お前も今日ここまでだ。

 ここまで来るのに長い時間がかかった。とても感慨深い。もう小突きというワードを聞くだけでこんなにも連想してしまうほど思い入れもある。しかし、それも今日まで。

ほんとに今日限り。

そんな気持ちで小突き現場を見ると、そこにはおじさんと若者がいた。様子から察するにおじさんが若者を小突いたようだ。あんな気の良さそうなおじさんがまさか京成小突き野郎だったとは。観念しやがれクソ野郎!

ホームを歩く小突き野郎を追いかけ、私は背中を小突いた。

 

5.

人に親切にすることは大変気持ちのいいことである。

行動を起こす瞬間は若干恥ずかしいが、それも一瞬で過ぎ去るもので、 後にはすがすがしい気持ちしか残らない。相手も笑顔。こちらも当然笑顔。

平和だ。平和はよい。私は平和にしたい。

今日も職場で若い子が困っていた。会話を盗み聞くと、どうやらコピー機の使い方が分からない模様。遠くの席に座る中堅社員に操作方法を聞きに行こうとしている。あんな遠くに行くよりも、近くの私が教えてあげた方がより早く解決するだろう。そう思って、私は会話に割って入り、操作方法を教えてあげた。いいことをしてあげた。若い子らも笑顔で感謝を伝えてきたので、非常に満足。

この行動のおかげか、今日の帰りは電車に座れた。素晴らしい、日ごろの行いのおかげとはこのことだろう。だが、今日はさらに良いことをするチャンスがまた訪れた。

最寄りの駅近くになった頃、揺れている若者がいた。

まだ新卒なのか、仕事の疲れが溜まったのだろう、非常に眠そうである。しかし、立ちながら寝るのは非常に危ない。ならばこの席を譲ってあげよう。なんて優しい行動なのか、我ながら素晴らしい。

若者に声をかけようとすると、その若者はイヤホンをしていた。こういう場合の声のかけ方を私は熟知している。背中を小突くのだ。私は彼の背中を小突いた。

彼はびっくりして振り向いた。驚かせてしまって申し訳ない。だが、敵意はないのだよ。私は笑顔になることでそれを伝えた。彼はイヤホンを外す気がなさそうなので、席が空いてることを指し示した。言葉がなくても伝えられるのだ。彼もその意図を理解したのだろう、頷いて感謝を伝えてきた。しかし、一向に座ろうとはしない。あれ、伝わってないのか。私は何度も笑顔で空いた席を指し示した。電車の発射音が鳴る。もう行かなきゃ。まだ彼は席に座ろうとしない。まあいいか。もういこう。

ホームを歩く中、私は今日の行動に浸っていた。今日は2回も人に親切をしてしまった。きっと、これからの帰り道でもいいことがあるだろう。そんなことを考えていたら、背中を小突かれた。私は驚いてしまい、ついちょっと弾んでしまった。振り向くと知らない中年男が。誰だろうと考えると、そいつは手帳を取り出し、「警察だ。観念しろ小突き野郎が」と言われた。頭の毛はもとより、頭の中も真っ白となった。

 

6.

知らないおっさんが電車を降りた後、財布を盗まれたのではないかとお尻のポケットを触った。しかし、そこには何もなかった。焦り、前に抱えたカバンのチャックを開けるとそこには大量の財布が入っていた。中を漁り、1つの財布を取り出す。ほっとする。ふと外を見ると、先ほど小突いてきたおじさんにこれまた知らないおじさんが絡んでいる。見せている手帳を見ると、どうやら警察のようだ。何かしゃべっている。「京成小突き野郎」と呟いているみたいだ。

まさか、この時間帯も警戒しているのか。

最近は危うい時もあるし、被害者の気持ちもさっき理解できた。

今日まで捕まらなかったのも偶然で、一度にこんなにも関連した事柄が起きるとは、きっとこれはもうやめろという警告かも。正直財布の処理も困ってきたし。これからは真っ当に生きよう。

そう決意して、おれはカバンのチャックを閉めた。

 

 

39.「報告」

ふと前を見ると、白くて四角い箱がずらっと並んでいる。

正確には、白くて四角い箱は横に6個並んであり、その列がフロアの奥まで規則正しく並んでいる。 さらにその白くて四角い箱の間には、黒いもじゃもじゃが時々ひょこっと顔を見せている。そしてそのもじゃもじゃには黒だけでなくたまに茶色もある。さらに言うと半分くらいはさらっとしている。つまり、もじゃもじゃはジャングルの如く生い茂っている様子を表した言葉ではなく、ただ白くて四角い箱とは違うんだということを言いたいだけなのだ。なんなら肌色できらっとしているとこもある。この世は多種多様である。

そんなことを考えていたら、始業のベルが鳴った。

ぼーっと前を眺めるのをやめて、目の前の黒い画面に集中しようと思った矢先、右斜め前にある黒いもじゃもじゃの1つが立ち上がった。

目の前を横切っていく黒いもじゃもじゃ。どこに行くんだろうと追っていくと、次第にこちらに近づいてきた。

「おはようございます」

後輩である。挨拶されたのだから当然こちらも「おはよう」と返そうとしたが、それよりも先に、

「え、どうしたの?」

と口走ってしまった。

後輩とは同じチームで仕事をしている。役割としては、後輩が実作業を行い、自分がその作業の検証を行っている。例えば、リーダーから売上データの集計を頼まれたときは後輩がその集計作業を行い、その確認を自分が行ってから提出するといった感じだ。そのため、後輩からはよく作業が完了した報告が来る。また、作業完了報告以外にも、作業の疑問やトラブルなどの報告もくる。つまり、よく報告に来るのだ。

しかし、朝一で報告を受けたことはなかった。確かに今集積作業を実際に行ってはいるが、期限まではまだ1週間もあるし、こんなにも早く報告にくるだろうか。それに今回の作業は関東にある店舗全体の集計作業のため、結構大変なはずだ。なおさらこんなにも早い報告はおかしい気がする。思えば、昨日は自分の方が先に帰った。もしかしたらあの後トラブルでも起きたのだろうか。後輩の顔を見てみる。少し顔がひきつっている。もしかしてほんとに困ったことが起きたのか?正直今トラブルが起きるのは面倒だ。だってコロナなんだもの。

「何か昨日あったの?」

「いや、今朝方の話なんですが」

今朝?どこからかトラブルの連絡を受けたのだろうか。

「通勤中、僕ずっとチャック空いてたみたいです。さっき気付いたんですよ」

「え?」

後輩は笑い出して、

「いやー気付いたときは恥ずかしかったです。でも、コロナであんま人がいなかったので被害は少なかったですね」

「……あそう」

今言われたことを自分の中でを整理してみた。そして思った。

なんだその報告は!

 

38.「2018年に読んだ本の感想」

2018年に読んだ本の感想

※敬称略

 

磯崎憲一郎鳥獣戯画

 いつの時代も大変

 

フィリップ・K・ディックアンドロイドは電気羊の夢を見るか

映画面白い、続編も

 

③今村昌弘「屍人荘の殺人」

 密室謎解きとしては面白かった。たが、密室になる理由の根本原因が明かされなかったのが不満点。そこがむしろ一番最初に謎として印象が強かったから尚更。まあそれ自体は密室ミステリーとは何も関係ないからしょうがないっちゃしょうがない。また、このキャラがこういう目にあうのかという点も楽しめた。映画も見よう。

 

④陳 浩基「13.67」

めちゃくちゃ面白い、ミステリーやらサスペンスの短編集。1人の警察官の人生を軸に、遡りながら、節目節目で担当した事件が描かれていく。だから当然死ぬわけないが、中盤の銃の打ち合いシーンはもしかして死ぬんじゃないかというドキドキ感も味わった。どの作品 も趣向が違いつつ、また香港の歴史もかいつまみながらなので、警察体系が変動する中で葛藤しながら事件の真相に迫る姿がよかった。

 

西加奈子「ふくわらい」

この世界とはなにか

 

綿矢りさ勝手にふるえてろ

映画面白かった 

 

⑦今村夏子「こちらあみこ」

一途。 

 

⑧今村夏子「ピクニック」

フーターズ 

 

⑨今村夏子「チズさん」

孫。 

 

綿矢りさ「仲良くしようか」

仲良くする。 

 

ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」

みんなが知ってるこれは実は・・・系。面白かった。SFは設定の理解が難しいものの、合理的な説明を着実に積み上げてからのぶっ飛んだ展開ってのは面白い。ほんとにこうなんじゃないかと思ってくる。 

 

吉本ばなな「白河夜船」

眠い。 池袋の梟書茶房で買った。

 

角田光代対岸の彼女

 団地に住む婦人同士のバチバチ争いかと思ったら、少しずつ互いを理解し交流していく話だった。バチバチ争いによる阿鼻叫喚が見れるのかと思ったら違ったけども交流を丁寧な描写で描いていてこれはこれで面白かった。

 

⑭コルソン・ホワイトヘッド「地下鉄道」

アメリカの黒人奴隷が秘密裡に運用されている地下鉄道に乗って逃亡する話。道中様々な街に潜伏し、時には長く住むことも。街ごとに特色が異なり、ある意味ワンピースに近いかも。悲しい伏線回収もあった。 

 

カズオ・イシグロ「私を離さないで」

ある学園での話。自分たちは何のために育てらているのか、その目的に徐々に気付き、静かに運命を受け入れる者や必死に抵抗の術を探るものが出てくる。残酷な運命に抗うための優れた方法は、苦しい状況下でもそれを凌駕する楽しみを見つけ、見せつけることなのかも。 

 

宮部みゆき「過ぎ去りし王国の城」

偶然見つけた絵画の世界に入り込んでしまうファンタジー。 

 

⑰草野原々「最後にして最初のアイドル」

全く想像だにしてなかったゴリゴリのSF展開。初めはアイドルを目指す者たちのライバル関係等が描かれ、主人公は悔しい気持ちを抱いたり等さもふつうのアイドル成長物語ですよって感じだった。が、急にSFへと展開していった。「会いに行けるアイドルではなく、会いに行くアイドルになったのだ」みたいな表現があって、これだと前半はファン目線、後半はアイドル目線と主体が変わっており、後半もファン目線でのキャッチコピーの方がいいんじゃないか?とすごく疑問に思ったとこがあったが、これとは関係なく話は面白かった。想像と全く違かったという変な読書体験をした。

 

松尾スズキ「もう「はい」としか言えない」

男がひたすら悲惨な目にあっていく。 

 

⑲宇佐美まこと「骨を弔う」

結末の手法がサラバと同様だった。が、グッとは来なかった。小学校の時に土に埋めた人体の標本の骨。しかし、それが本当の人体の骨だとしたら・・・。今はもう離れ離れになったあの時の5人組が徐々に集まり、当時を回想していくという流れは面白いものの、あんま覚えてない。

 

高山羽根子「オブジェクタム」

祖父が新聞作ってる。 ストーリー性ではなく表現で訴えてくる作品なのかも。

 

西加奈子「サラバ」

前回読んだ時から2年経って、今もう一度読んだらどんな気持ちを抱くのか確かめたく読んだ。 2年前に読んだ時のように衝撃を受けるようなことはなかったが、違う感想は抱いた。主人公にとって「サラバ」という言葉は友人との合言葉であり、人生の楽しかった一瞬を凝縮した言葉であり、唱えるだけで安心する魔法の言葉である。自分にとってこの「サラバ」に相対する言葉はあるのか?それを投げかけるような小説だった。

 

 

 

 

37.「2017年に読んだ本の感想」

2017年に読んだ本の感想

※敬称略

 

テッド・チャンあなたの人生の物語

2017年夏に公開された映画「メッセージ」の原作。とても面白いと評判だったから読んだ。突如現れた、ただ浮遊するだけのUFOに接触を試みる話と、主人公の家族との日々の生活が交互に描かれてる。テーマにもなっている光の屈折に関する理論の説明が何度読んでも理解できずに苦しんだ。終盤、話の構造に気付いてそれが確定したときはゾクゾクした。詳細なネタバレは避けるが、当時の感想を振り返ってみると「宇宙人たちがなぜ会話をするのか。それは彼らにとって会話=行動であり、相手や自分自身の指示するものとして使用している。これから起こす行動の指示や説明を行っているのだ。ある意味言葉にすることは行動を強制的にし、また行動への積極性も生まれてくるのだろう。夢を言葉にするといいみたいなことをよく聞くが、言葉も行動の一種であり、つまり夢への行動の最初の一歩を踏んでいるのだ」みたいなことを書いてあった。後半は良いことを書いてある。ただこの感想からどういう宇宙人なのか想像できない、謎。というか話が主に描いているのは残酷な結末が待っていても、過程を楽しもうみたいな話だった。

 

東山彰良「流」

この頃はとにかく本を読み漁りたい時期だった。そのためまず直木賞受賞作を眺めていたところ、この本の審査員の絶賛ぷりが凄まじかったので読んだ。めちゃくちゃ面白かった。異様に面白かったことだけは覚えている。導入が好きだった。祖父が殺害され、その犯人捜しから話が始まる。といってもすぐに見つかるわけでもなく、犯人捜しの間に徴兵や恋愛、ヤクザとの抗争などの人生が描かれ、やがてその体験全てが祖父を殺害した人物との衝突に繋がっていく。もう一回読もう。

 

恩田陸蜜蜂と遠雷

 この本もめちゃくちゃ面白かった。分厚いし、2段構造で分量やばいなと思ったけども、あっという間に読み終わった。ピアノコンクールを描いた話で3人の天才と1人の秀才が主人公。天才同士でひたすら褒め合ってる。演奏シーンが8回ぐらい描かれているが、すべて違う筆致であり、またどれもがどんな演奏しているのか、観客がどのようなことを想起しているのかが分かって、読んだ後にはめちゃくちゃ知ったかぶれる。クラシックは全くわからないのに分かった気になれた。作者すごい。

 

ユウキロック「芸人迷子」

 芸人として迷っていたことが書かれてあった気がする。

 

外山滋比古「思考の整理学」

 思考が整理された。

 

筒井康隆「旅のラゴス

 ラゴスが旅をしていたぐらいしか思い出せない。

 

⑦こだま「夫のちんぽが入らない」

 誰にも相談できない悩みを抱え持つことはとてつもなく苦しく、人を追い詰めていくのだろう。辛いことは連鎖し、こちらも辛かった。

 

森見登美彦有頂天家族

 2015年以前に読んでいて、第2章が発売されるためもう一度読んだ。たぬきは可愛い。

 

遠藤周作「沈黙」

イエズス会の高名な司祭が日本で拷問にあい、棄教したとの報告を受け、真相を確かめに行くその司祭のかつての弟子2人の話。毎日祈りを捧げているのにも関わらず、私が辛い目に遭った時になぜ主は何もせず沈黙しているのか。に対して、イエスは沈黙ではなく一緒に苦しんでいたと描いた作品。もし拷問の辛みに耐えられなければ踏み絵を踏んで棄教してよい。踏み絵を踏むことも心痛だろうがそれも私は一緒に苦しむ。イエスはユダの裏切りすらなすべきことをなせと言った結果であり、赦してるっぽい。

そういえばワンピースの白ひげもこれに近いかも。白ひげ傘下の海賊スクアードが海軍の赤犬に騙され、結果白ひげを刺す。しかし、「バカな息子を、それでも愛そう」と言って許した。お前がそうしたいと思ったならそうしろ精神。

どっかの県知事のコロナ禍の最中で「自身の給与を1円」にするという発言もこれに近いかもしれない。コロナによって生活難となった人と同じ苦しみを味わうということだろう。有権者の中には、この行動に感銘を受ける人もいるかもしれない。ただし、知事は神ではない。ゆえに生活難となった人と同じ苦しみを味わってる場合ではなく、生活難となってる人を早く助けるべき。お前が一緒に苦しみ味わったところで。削減した給与分をコロナ関連の予算に充てたり、給付金などにするってことまで発表すればよかった。どこかにそれらが明示されてるかもしれないけど、給与削減したした発表しないのは悪手。だからなんだって話。

 

村上龍5分後の世界

突然、現実時間から5分だけずれた世界へ飛んだ。そこでは戦争が続いており、主人公は元の世界に戻ろうとするもその戦争に巻き込まれていく。最後の主人公の決断が印象的。

 

森見登美彦有頂天家族 2代目の帰朝」

 タヌキが可愛い。ひたすら誰も死なないでほしいと思いながら読んでた。

この年は京都と地元の2か所で野生のタヌキを見た。

 

ピース又吉直樹「火花」

最後の先輩の取った行動が気持ち悪かった。映像ではどうなっているのか。 

 

テッド・チャンあなたの人生の物語

もう一回読んだ。構造に気付く瞬間がどこだったかわかりたくて。だが、それが分からなかった。読んでてゾクゾクしたのは1回目のみで、貴重な体験だった。理論について、今度はすんなりと理解できた。 

 

テッド・チャン「バビロンの塔」

なんか塔に上る話。

 

テッド・チャン「理解」

 何も覚えてない。

 

テッド・チャン「0で割る」

内容は忘却の彼方。 

 

村上春樹騎士団長殺し

例えの中で例えだして困惑した。

独特な筆致はなんかの複線かと思ったら違った。

たくさん読まないとこの人の良さはわからないのだろう、とりあえずおれは向いてないかもと思った。公演の手伝いに行ったときに4,5年下の子が村上春樹の良さを語っていて、聞いてみると、汚い面を汚いままに書いていることが美しいみたいなことを言ってた。 

 

⑱燃え殻「僕たちはみんな大人になれなかった」

大人になれなかったそう。 

 

中村文則「教団X」

とある教団に入り浸るようになった知人を探しにいく話。それと交互にして別団体の教祖的な人の説法みたいなのが描かれる。この説法を今でもたまに読み返している。仏教は仏の悟りを弟子たちが教義としてまとめたものであり、仏自体はああしろこうしろとは言ってないだとか、仏は「我思うゆえに我あり」をはるか昔に否定しているだとか、仏は原子の存在に気付いているだとか。

 

⑳オードリー若林正恭「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」

父親との話が印象的だった。

キューバに行ってみたい。 

 

㉑今村夏子「星の子」

怪しい水のおかげで助かって、そのまま怪しい団体へと入信する両親。若い娘はそれをどうすることもできず、ままならない日常を過ごす。みたいな話だった。あり得そうで怖かった。今村夏子さんの話はどれもあり得そうで怖いみたいなのが多い印象。それを信じており、それで幸せならもういいのかもしれない。職場の前の前の課長が水素水を重宝してて、それもその人がそれを好きならもういいのかも。

 

㉒村田紗耶香「殺人出産」

10人産んだら1人殺していいという話。内容は忘れてしまったが、かなり怖かった気がする。 

 

㉓村田紗耶香「トリプル」

3人で付き合うみたいな話だった。三角関係というわけではない。 いろんな行為も3人で行う。だからカップルならぬトリプル。

 

㉔村田紗耶香「清潔な結婚」

 あんまし覚えてない。

 

㉕村田紗耶香「余命」

あんまし覚えてない。が、村田紗耶香さんの話はどれも生々しい感じがする。

 

伊藤明彦「未来からの遺言 ある被爆者体験の伝記」

とある被爆者の体験をよくよく紐解いていくと、どうやらいろんな人の体験談を交えて構築しているらしい。しかし、あまりにも強烈な体験を経るとそのように記憶が混同してしまうんだなと思った。ライムスター「ガラパゴス」の宇多丸のヴァースに、 「なんせはるか太古からの輸入文化大国 ま、どこの国もそんなもんで大部分がおあいこな ごちゃ混ぜな遺伝子併せ持つ異形なキメラ」というのがあり、文化はキメラなんだというのがこの本読んで合点がいった。

 

垣根涼介「室町無頼」

応仁の乱の話。 彷徨っていた主人公が拾われて、修行し、戦争に参加する話。面白かった。修行シーンが痛そう。

 

ロバート・A・ハインライン夏への扉

夏になったので読んだ。昔読んだけど内容忘れたのでそれもあって読み返した。歴史の裏ではこういうことが起きていた系の話で好き。 

 

スティーブン・キングダークタワーⅠ ガンスリンガー

文字の多さが半端ない。かつ緻密すぎる。油断しているとすぐ話を見失う。 

 

㉚丸山ゴンザレス「世界の混沌を歩く ダークツーリスト」

 クレイジージャーニーで特集されていたニューヨークのセントラルパークに住む人の話とかがまとめられている。面白かった。クレイジ-ジャーニーがああいう形で終わったのは残念。

 

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「星の王子様」

全然内容覚えてない。

 

ジェイムズ・ティプトリー・Jr.「たったひとつの冴えたやり方」

意外と悲しい話だった気がする。 

 

ウィリアム・アイリッシュ「幻の女」

携帯電話もまだない時代の話。見事な構成だったが、ことあるごとに「あ、携帯ないのか」と思ってしまった。 

 

森見登美彦ペンギン・ハイウェイ

読むのにすごい苦労した気がする。 不思議な存在はいっぱいあるのだ。

 

筒井康隆残像に口紅を

50音の日本語が話が進むにつれ、1音ずつ消えていく。当然物語も消えた文字は使われて行かないため、最後の最後にはたった1音で終わる。最後までちゃんと物語として読めたのが凄い。 

 

平野啓一郎「マチネの終わりに」

 中盤のとある人物の自己中心的行動が酷すぎるだろ!と思ったあまり、読書を一時中断していた。意を決して読み進めると、やはり大変なことが起こり、ほんとにいろいろあったが、最後には良かったねという感想で終わった。

 

読書の感想なのに内容覚えてないのは申し訳ない。

36.「2016年に読んだ本」

2016年に読んだ本の個人的な感想

※敬称略

もう4年も前のことだからあまり覚えてない

確か読んだ順

あんま調べずに、当時思ったことを書き連ねてます。

 

西加奈子「サラバ」

全6章構成で4章ぐらいから加速度的に面白くなった気がする。

生まれてから30代中盤までの半生を描いた作品。西加奈子さんの自伝的な要素もあるらしい。主人公は男性だけど。

始まりの一文と終わりの一文がかっこいい。

主人公は幼少期をエジプトで過ごすのだが、初めてピラミッドを見た時に、ピラミッドを見上げ「でっけー」と言うシーンに憧れて、自分もエジプトに行ってピラミッド見て「でっけー」と言いたくなったことを覚えているし、今でもそうしたい。コロナでどうなるかわかんないけど。

正直、第3章ぐらいまでは関連性のあるかわからないエピソードが語られるのみで、なんならイケメンで才能もあって猟奇的な姉にはめちゃくちゃ困らされるけども順風満帆な人生なので、話がどう終結していくのかわからず面白いのか?と思いながら読んでいた。しかし、終盤からはその世界に引き込まれ、気付いたら夢中で貪り食うように読んでいた。そして今では面白さに関わらず人生を変えた本は何ですか?みたいな質問をされたら、自分はこの本ですと答える。面白い本はいっぱいあれど、ここまで心奪われたのは今のところサラバだけだった。たぶん今後もこんなに心奪われることはない気がする。

よく人生を変えた作品みたいなのが語られるけど、そんな作品がまずあるのかって話だし、出会えても1つぐらいだろうと思うけど、自分は出会えたので運がよかった。

ちなみに高3で出会ったライムスターも衝撃的だった。それ以前に聞いていたヒップホップは何だっけぐらいに本物のヒップホップに出会ってしまったという体験だった。

よくよく思い出すと中学時代はリップスライムケツメイシを聞いており、高校時代は降神やニトロマイクロフォンアンダーグラウンドを聞いていた気がする。

降神は文学的過ぎて何歌ってるのか正直わからなかったし、ニトロは普通に何歌ってるのかわからなかった。そんな中で2011年8月ごろにいいともに出演していたライムスターを見て、当初は何だこのおっさん達と思っていたが、即興という名の用意されたフリースタイルラップを聞いて、かっこいいなこのおっさんらとなり、YouTubeで「ワンスアゲイン」「ラストヴァース」を聞いて衝撃を受けた。こんなにも一つのテーマを同じ韻で踏みながら深堀し、追及していく日本語ラップがあったのかと。当時、日本語ラップは駄洒落的でテーマをはぐらかしてんなと思ってた時に聞いたライムスターは尚更衝撃的だった。

本の感想なのに脱線しすぎてる。とりあえず今までの人生で衝撃を受けたのはライムスターとサラバ。2個もあんのか。

とにかくサラバ読了後の衝撃、開放感が凄かった。サラバ前後で考え方も変わったし、サラバ読む前までは何を読んできたのか思い出せなくなったし、以降サラバのような作品を求めて読書してもしばらく物足りなさを感じていた。

2011年に苗字が変わった。家名を継ぐために。そこから何かずっとモヤモヤしたものを抱えていたのだろう。この本を読んでそれが解消された。モヤモヤが解消されると思って読んでないからこそ衝撃を受けたのだろうし、そもそもモヤモヤを抱えていたことにもこの本を読んで気付いた。また、この本を読む以前までは「私は私」みたいなことを抽象的に考えすぎたのか全く意味が分からなかったし、自分探しの旅も馬鹿にしていた。しかし、初めてそれらを理解出来た気がする。それらを表現している箇所は何度も何度も読み直した。

またこの本を読んでなぜ人は宗教にハマるのかについても考えだした気がする。世界的には何かしらの宗教に入っている方が普通っぽいので、ハマるという表現が正しいかはわからないけども。とにかく、信じるとは何かということを考え出した。

 

「あなたが信じてるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」

章のタイトルにもなっているこの言葉は、主人公に強く響き、僕の心もつかんで離さなかった。

 

サラバについてはいろいろ書きたいことがあるけども、2018年にも読んだのでそこで書く、かも

 

森見登美彦「夜行」

表紙と帯が気になったので買った本。

確か同窓会的な感じで集まって、それぞれが「夜行」という絵にまつわる体験を話していく話。それぞれのエピソードが怖かった。

もう一回読もう

 

西加奈子「舞台」

ニューヨーク旅行に行って一文無しになる話。

サラバで西加奈子さんを知って、あらすじが面白そうだから読んでみた気がする。

自分とは何かを知る話だった。

 

西加奈子「きりこについて」

これもあらすじが気になって読んだ本だった気がする。そして自分とは何か見たいな話しだった気がする。

あんまり覚えてない

 

森見登美彦「聖なる怠け者の冒険」

主人公は何もしない。寝てるうちに事件に巻き込まれてた。

作者の他の作品のキャラがたくさん出てるそうで、他の作品を一通り読んだらまた読もう

 

吉田豪「聞き出す力」

いろんなインタビュー例をもとに聞き出す力を説明してた、気がする。

 

大塚明夫「声優魂」

声優も大変だなと思った気がするし、その一線で活躍する人の考え方は他の事柄にも通じるなと思った気がしなくもない。

 

西加奈子「窓の魚」

内容なにも覚えてないけど、今あらすじ読んだら面白そうだからもう一回読む

 

⑨オードリー若林正恭「社会人大学人見知り学部卒業見込み」

二子玉川文教堂で購入したことを覚えている。

当初、ハードカバー版をレジに持って行った。すると店員のおばさんが「これいい本なんですよ!ちなみに文庫版も出てて、内容も追加されていて、より充実してますよ!しかもハードカバーより安いし」と勧められた。僕は「あ、じゃあ文庫版でお願いします」と言って、文庫版と取り換えてくれた。後にも先にも書店で店員と話すのはこの時だけだったけど、本の話をできるのは嬉しかったので、今度は誰か店員に話しかけておすすめでも聞いてみようかしら。コロナでどうなるかわからないけど。

内容もよかった気がする。売れてきたことによる葛藤が描かれていた。

 

⑩戸部田誠「1989年のテレビっ子」

自分の生まれる前のテレビについて、知っていること知らなかったことが整理され、どれもワクワクするような内容だった。

売れっ子はみんな努力をしている。

 

⑪一色信幸「配達されたい私たち」

あらすじに惹かれ、内容もよかった。

人生つらくなったときに読むといいかも。

また読もう。

 

西加奈子「i」

西加奈子さんは自分とは何かについてをいろんな手法を用いて伝えてきているんだなと思った。それが響いたのが自分にとってはサラバだった。正直、サラバ以外の西加奈子さんの本では、「私は私」論があまりしっくりきてない。だからこそ、人それぞれにどれか必ずヒットする作品がある気がする。

おれの読み方が浅いのかもしれない。

このとき新宿で西加奈子さんの個展もやってたのでそれも見に行った。

絵も勉強しないとなと思った。

「i」はサイン入りの本が売ってたので、それを購入した。

 

内村宏幸「ひねりだす力」

イデアはひねり出すんだ。

 

藤井健太郎「悪意とこだわりの演出術」

付録でついてたPUNPEEの曲が好き。

 

フランツ・カフカ「変身」

主人公が理不尽な目に合って可哀そう。

 

⑯今村夏子「あひる」

不思議な話だった。

 

森見登美彦走れメロス

楽しい話だった。

 

⑱村田紗耶香「コンビニ人間

「え、一緒に住むんかい!」と思った気がする。

 

道尾秀介「サーモンキャッチャー」

小説だけでなく映画化計画もあると帯に書いてあったけど、そのあと一向に映画化の話が出てこない。

 

いとうせいこう「想像ラジオ」

不思議な話だった。

 

 

本の感想なのに覚えてないのがいっぱいある。

しかし、あくまで当時の感想を思い出して書いてみるであり、今読み返したらそれは2020年に読んだ本とカウントされるので、そんな調べずにありのままに書いた。

 

35.「パンを求めて 第一章:出掛ける」

その日、浜岡は朝早く起きた。

といっても9時ではあるが。ただ、いつも休日は昼過ぎまで寝ていることが多いため、それに比べるとやはり早い。布団の横では目覚まし時計がジンジンと鳴っている。それを気にすることもなく、おもむろに起き上がって浜岡は窓に向かう。カーテンを開けると、眩しい日差しが部屋に差し込んでくる。気持ちのいい朝だ。大きく伸びを2回する。昔、2回伸びをすると完全に目が覚めると何かの専門家がテレビで言っていた。それ以来、浜岡は目覚めたら2回伸びをすることにしている。効果を実感したことはない。このタイミングで目覚まし時計を止めて、次に洗面台へと向かい、顔を2回洗う。また2回だが、こちらに関してはなんとなくである。だからたまに3回洗うときもある。顔を洗ったのち、歯磨きを行いながら朝食の準備を始める。といっても冷蔵庫から前日の夜にこしらえたサラダと牛乳を取り出し、食パンにバターを塗ってトースターで焼くだけだ。焼いている間にうがいをしに洗面所へ戻り、玄関のポストへ新聞を取りに行く。新聞を取ってリビングへ戻ってくると、パンがちょうど焼き終わっている。パンを皿に取って机に運び、テレビをつけ、新聞を読みながら、朝食を摂る。ここまでが浜岡の朝のルーティンである。以降は平日なら会社へ行く準備を、休日ならゲームなどをし始める。浜岡はこの朝のリズムを頑なに守っている。しかし、今日は珍しく用事がある日だった。なので、浜岡は朝のルーティンを終えたのち、早々に出掛ける準備をして、そそくさと家から出ていった。

 

浜岡は木造2階建てアパートの1階角部屋に住んでいる。築30年で少しボロボロのところも見受けられるが、浜岡はここを、そしてこの近辺を気に入っている。1DKだが風呂トイレが別で日当たりもよい。駅からも歩いて10分ほどだし、近くにコンビニやスーパーもある。そしてなにより美味しい自家製パンを売っているパン屋がある。そう、浜岡はパンが好きなのだ。

例えば食パン。トースターで焼いたときの、鼻全体を包んでくるかのような香ばしい匂い、白い生地にこんがりとした薄茶色、さらにその上を溶けたバターによってコーディングされたあのコントラクションがまずたまらなく好きであり、それに噛んだときのサクッという音に食感に、バターの奥から噛むたびに染み出してくる小麦粉の味とたまらなく好きなのである。また、今日はたまたまバターだったが、ジャムなどを塗るときもあれば、トースターで焼いた後にチョコを塗り、溶けていくのを楽しみながら食す時もある。フレンチトーストにするときもあれば、むしろ何も塗らずに食べるときもある。ほかにクロワッサンやアンパンも好きであり、クロワッサンは、何層も折り重なっていることを実感する噛んだ瞬間が好きであり、アンパンはただただ好きである。とにかくパンに目がないのだ。

そんなパン好きの浜岡のもとにある情報が飛び込んできた。それは、その近くのパン屋で最近、とんでもなく美味いパンが発売されたとのことだ。どういったパンなのか。その情報はまだ掴めていない。ただただとんでもなく美味いパンなんだと風の噂で聞いた。そして厄介なことに1日限定100食、しかも毎週土曜日のみ、午前中の11時からの販売らしい。そんなわけで、普段だったら寝ている休日に早起きして買いに行くことにしたのだ。

実はというと、先週も浜岡は10時ごろに起きてパン屋へと出掛けていた。しかし、着くとすでに行列ができており、またその日はテレビの取材も行われていた。店員に聞くともう今日の分は売り切れらしい。買えなかったのだ。テレビの放映はまだ当分先らしいが、しかし、テレビで放映されれば今よりも当然人が集い、ますます買える可能性が減るだろう。だからこそ今のうちに買う必要がある。だから休日にもかかわらず朝早く起きたのだ。正直起きれるが緊張はしたが、無事に起きれてよかった。その安堵と期待を胸に、浜岡はパン屋へ続く道を歩いていた。

そんな浜岡の前に、いくつもの荷物を抱えたおばあちゃんが現れた。

そして、この出会いこそが浜岡の今日という最悪な1日の始まりだったのだ。しかし、浜岡はそのことをまだ知らない。

34.「年の瀬に」

年の瀬にインフルエンザになった。

しかも人生初めてのインフルエンザだった。

今まで元日に風邪をひく経験が何度かあったが、初めて年を越す前から風邪を引いた。

 

インフルとは、こんなにも頭が痛くなり、何にもやる気がなくなってしまうのか。

これまでの自分はインフルエンザに罹った人のことを羨ましく思っていた。それは会社を1週間近く休めるからだ。急に1週間も休めるだなんて!若干ずる休み感すらある。自分だったら何してようかと考えるときもあった。しかし、いざ罹ってみると何かを行う気力がすべてなくなり、お風呂に入る動作すら異常に疲れを感じる。すっかりインフルの脅威を思い知った。もう罹りたくない。というか罹るならせめて会社のある平日に罹りたかった。なぜ正月なのか。おかげで12月30日~1月2日はずっと家にいた。

 

そして困ったことに、この時期は単なる休日ではない。いつもより面白い特番が多いのだ。よって、テレビっ子である自分はひたすらいろんな番組を眺めていた。つまり、寝れないのである。普段の平日ならどうでもいいワイドショーばかりなので気軽に寝れるものの、特番のバラエティはできるだけリアルタイムで目撃したいという欲があって、だからずっと頭痛いなーと思いながらテレビの前に張り付いていた。それに寝ようとしても鼻詰まりがひどく、あまり気持ちよく寝れない。寝れないとどうなるか。そう、テレビを見るのである。結果、朝から晩までずっとテレビを見ていた。インフルなのに。寝る時間を削ってまでして。ほんと最悪のタイミングでインフルになった。

 

他にも初めての経験がある。熱が39度近くになった。38.9度。記憶の中でこんなに高熱になったことはない。39度は越えなかった。予防接種のおかげか。どこかで予防接種は2か月超えたら効能が無くなるという噂を聞き、ちょうど10月上旬に予防接種したので若干心配したが、予防接種を受けずにインフルエンザに罹った人の話を聞くと、40度に近い高熱を発したことが多い印象なので、やはり予防接種をしておいてよかった。

 

予防接種しておいてよかったとは思うが、やはりかかるときはかかるのだと今回の件で分かった。では、どこから貰ってきたのか。

そもそも12月は身体の調子が悪かった。会社でも周囲の人がよく咳き込んでおり、うつされたら嫌だなと思っていた12月上旬ごろ、咳き込むことが多くなり、次第にのどの痛みも出てきた。なので近くの診療所へと行った。

確か去年もこの時期に行っており、その時、若い医者にこう言われた

「毎年、この時期に同じような症状の風邪をひいてますね」

なんだか恥ずかしかった。

当然今までのカルテが電子化されており、実際に見てみると10~12月に確かにここの診療所へと来ていた。処方される薬も大体同じ。なので、その時も同じような薬を処方された。今回も同じようなことが起きるのかと思い、すこし行くのをためらったが、いざ行ってみると今回はベテランで且つ、ここの診療所の所長である医者だった。

その所長は信頼に足りえる人だ。行くたびに毎回しっかりと診療してくれる。そして、薬以外の風邪の予防方法などを教えてくれる。そんな医者に今回初めて言われたことがある。「インフルエンザの検査してみましょうか」

毎回、診察前に軽いアンケートに答えるのだが、そこには、インフルエンザの検査を希望しますか?という項目もある。自分はこれまでずっと希望しないにしていた。それは決して高熱が出たわけではないからだ。インフルエンザといえば高熱であり、自分の症状はそれではないから、インフルではないだろうと思って今まで検査を受けてこなかった。それにこれまで一回もインフルに罹ったことがないのだからまさか自分が罹るとはとも思っていた。しかし今回はインフルエンザが流行しだした時期ともあって、検査を勧められた。

今まで検査をしなかった理由として、もう一つ理由がある。なんとなく怖いのだ。

どういう検査するかわからなかったし、また、自分はインフルなんだと認識した瞬間からより症状がひどくなりそうだからだ。

インフルエンザの検査は綿棒のようなものを鼻の奥へと突っ込み、10回ほどこすることで粘膜を採取し、専用の液体に漬け反応を見ることで行う。液体に漬け数分経つと、線が浮き出てくる。その線が1本だと陰性、2本だと陽性だ。このようなことをベテランの医師はちゃんと説明してくれる。そしてこの時は1本だった。錠剤をいくつか貰い、診察は終わった。この薬をちゃんと飲めば治りますと言われた。そしてちゃんと用法・使用量を守って飲んだ。回復した。が、正直咳だけ少し続いていた。でもそれはいつか治るだろうと思ってそのままにしておいた。咳は2週間ほど続いた。そして明くる日、急激に強まった。のどの痛みも再来した。なのでもう一度診察所へと向かった。

 

12月上旬と同じ受付の人に、12月上旬と同じように診察券を渡し、そしてアンケート用紙を貰った。今回はインフルの検査を受けることにした。前よりも風邪の症状がひどかったし、それに検査の内容を知っているからだ。やはり一度体験しているともうなにも怖いものはない。

アンケートを提出すれば、あとはもう診察の順番を待つだけだった。しかし、なぜか受付の人から呼ばれ、こんなことを言われた。

また、風邪をひいたということですか?」

またってなんだ、またって!頻繁に風邪をひく軟弱野郎で悪かったな!

12月30日午前中のみの診断で、人が結構いたため、事前に症状を押さえておきたかったのだろうが、「また」という言葉にひどく精神を痛めつけられた。ただでさえ頭が痛いのに!

 

 

名前を呼ばれたので、いざ診察と思ったが、廊下でもう一度待たされた。そして看護師によりアンケートをもとにした症状の確認と、インフルの検査を本当に実施するか確認された。

この時、熱は36.2分であり、インフルは普通高熱のため、たとえもしインフルであっても陽性反応が出ないのではという懸念があるらしい。

ここで自分は上旬の時のことを思い出した。あの時も平熱だった。しかし、医者の勧めでインフル検査を受けたのだ。なのになぜ今回は本当に検査するか確認されるのか。検査自体も比較的容易にできるはずだ。もしかして検査キットが少ないのか?というかこの時はあまり思考を働かせたくなかった。なぜなら頭が痛いから。それにどうやらインフルのウイルスが多ければ、熱がなくとも陽性反応が出るらしい。しかし、あまりにも陽性反応出るかわからないですと言われたので、「じゃあ、検査しない方がいいですか?」と聞いてみたところ、「検査した方がいいと思います」と言われた。

なんだったんだこのやり取りは!

アンケートに検査するって書いてんだから四の五の言わずに検査してくれよ!

こっちは頭が痛いんだ!

 

とりあえず、インフルの検査結果待ちとなった。

そしてついに医者に呼ばれた。こないだのベテラン医師ではなかった。その医者に開口一番こう言われた。

「残念でした。インフルエンザです。」

残念でしたってなんだ!

 

初め、診察所に来たときは、なぜもう一度来たのかと疎まれ、インフルの検査も実施するかなぜか何度も確認され、いざインフルだとわかったら残念でしたとクイズ番組で不正解だった時のような反応をされ、インフルの薬以外に変な思い出をいっぱい持ち帰る羽目となった。

 

とりあえず、健康でありたい。