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26.「姿勢ブレない女」

 

飛行機内。

 

アナウンス          まもなく着陸態勢に入ります。今一度シートベルトを着用していることをご確認ください。

客①       おい、離陸の時、あのCAの人見てたか?

客②       離陸の時?なにそれ?どういうこと?気持ちわる

客①       いや、なにも変な意味じゃなくて。離陸の時多少揺れるじゃん?でもあのCAの人全然揺れてないんだよ?直立不動

客②       ずっとあの姿勢のままってこと?

 

              CAの人は背筋を伸ばして起立している。

 

客①       そうなんだよ。これから着陸だろ?ちょっと見てみろって

 

              飛行機、揺れ出す。

              しかし、CAの人は微動だにしない。

 

客①       ほら!すげーよ!

客②       あ、ほんとだ!すげー!てか、なんか聞いたことあるわ。伝説のCAがいるらしくて、どんな揺れでも微動だにしないんだって。その名も姿勢ブレない女

客①       じょってなんだじょって

客②       女性のじょ

客①       もっといい呼び方あるだろ

 

              飛行機、めちゃくちゃ揺れ出す。

 

客②       ちょっとこの揺れ大丈夫か?

客①       もしかしたら、もしかしてかもな

客②       ちょっとやめろよ!縁起の悪いこと!

客①       でも、こんな状況でもあの人姿勢保ってるぞ!

 

              CAの身体が映る。まったくブレてない

              しかし、顔が映るとめちゃくちゃテンパっていた。

 

客①       あ、だめだ。顔すごいテンパってる!顔にテンパり漏れ出ちゃってる

客②       相当やばいって状況なんじゃないの?

 

              CA、泣き出しちゃう

 

客①       ああ!泣いちゃってないか?

客②       メンブレしちゃってんじゃん!

漫画「魁‼男塾」の江田島平八みたいな女性客(胸には客と書かれたネームプレート)   例え想定していた事態だとしても、いざわが身に起きれば人は動揺する。だとしても必ずその状況を打開できると信じることが大事なんだ!わかったか!

客①②   はい!

 

              飛行機、墜落する。

25.「主張ブレない男」

スーツ姿の男が映る。

 

男          わたくし鳥居、なんでもすぐ忘れちゃうの

 

              大量のシャッター音とフラッシュ

 

記者①   上越会社からの献金はほんとうですか?

記者②   あの発言の真意を教えてください!

記者③   脱税疑惑は本当でしょうか!?

記者たち              議員!お答えください!

 

そこは謝罪会見場だった。

男は有力な国会議員であり、週刊誌の取材により明らかとなった多くの不正の真偽を追及されている。

 

議員       一切記憶にございません

 

              記者「お答えください」「議員!」などと声が飛び交う。

              その様子を後方で見ている記者たちがいた。

 

記者④   あんなにいろいろ悪事がばれているのに、一切主張を変えませんね

記者⑤   ずっと記憶にございませんだな

記者④   もし本当に記憶ないなら病院行った方がいいんじゃないんですかね?

記者⑤   しかし、反応すらしないってことは、もしかしたら本当はなにもやってないのかもな

記者④   ええ?でも証拠だっていっぱいありますよ?

記者⑤   そうだな。ただ今のおれらが言えることは、あの議員こそ新元号最初の主張ブレない男ということだ

記者④   ・・・はい、はい?

記者①   議員!奥様があの×岡議員と不倫しているとのことですが、どう思いですか?

議員       え!?なにそれ?

記者②   議員の息子さんの△さんもあの□山議員と不倫しているとか!

議員       ちょっとまってよ!知らないよそんなこと!

記者③   議員の娘さんはまだ白です!

議員       もういいよ!もうなんだよ、なんだんだよ!

記者④   あ、すごいメンブレした!

記者①   議員!献金の話は本当ですか!?

議員       献金?あの会社からのだろ!?もらったよ!本当だよ!

記者④   認めた!?

 

              大量のシャッター音とフラッシュ。

 

漫画「魁‼男塾」の江田島平八みたいな記者(胸には記者と書かれたネームプレート)   家族のためにがんばってきた人間が最後は家族に裏切られる。人は信仰していたものが虚像だったと分かった時、とても弱ってしまうのだ!わかったか!

記者④⑤              はい!

 

 

24.「体幹ブレない男」

 

どこか高校の体育館。

体操部員が鉄棒の練習をしている。

              とある部員が見事な鉄棒の演技を披露する。

 

先輩①   すげーなあいつ、一年生なのに体幹が一切ブレてないぞ

先輩②   とんでもない一年生が入ってきたな

 

              見事な演技を披露した一年生に他の一年生が集まってくる。

 

一年生①              お前すげーな!

一年生②              体操部強豪校の鉄棒中学校出身なんだっけ?

一年生③              だからなのか!

 

              一同、「すごい」と褒めまくる。

             

見事な演技した一年          みんなありがとな!これから一緒に頑張ってこうぜ!

一年生④              すげー、まったくうぬぼれてないぜ

一年生⑤              精神面でも優秀なんだな!

一年生⑥              さすが鉄棒中学卒業生だぜ!

 

              一同、「さすが」と褒めまくる。

 

見事な演技した一年          ちなみにみんな!今日からおれのこと「体幹ブレない男」と呼んでくれてもいいんだぜ

一年生⑦              おお!

一年生⑧              よろしくねー体幹ブレない男!

一年生⑨              仲良くやってこうぜ!

 

              一同、「よろしくー」などと言う。

              一同、落ち着く。

 

一年生⑩              ほんとにそのあだ名でいいのかよ

 

              テロップ「2年後」

 

              どこかの体育館。

              「全国高等学校総合体育大会 体操競技県大会」と書かれた幕が飾られている。

 

              3年になった体幹ブレない男が鉄棒演技をしようとしている。

              観客席から1年生が応援している。

 

一年生たち          がんばってー!体幹ブレない男せんぱーい!!

 

              体幹ブレない男は頭を抱えだす。

 

同級生   ん?なんか体幹ブレない男の様子、おかしくないか?

体幹       もう、もうその呼び方はやめてくれー!!

同級生   あいつ、メンタルぶれてないか?

 

              笛の音が鳴る。

              体幹ブレない男が演技をする。が、失敗してしまう。

 

一年生たち          キャー

同級生①              あ、失敗した!

同級生②              あの体幹ブレない男が!?

漫画「魁‼男塾」の江田島平八みたいな顧問(胸には顧問と書かれたネームプレート)   心のブレがパフォーマンスにもブレをもたらす。わかったか!

部員たち              はい!

 

23.「ねえ聞いて」

 

              坂登       加子

              三津目 未来

 

              店員

 

              どこかの喫茶店

              舞台中央の机を囲って、未来と加子が座っている。

              机の上には、コーヒーなどがある。

 

未来       ねえ聞いてよ、ある時お昼一緒に食べようってなったの、会社がすぐ近くだからね。

加子       あ、彼氏の会社すぐ近くなんだっけ?

未来       うん、もう歩いて10分ぐらいのね

加子       へー

未来       広場に集まろうって

加子       ん?

未来       そこで会ってからお店どこ行こうかってなったんだけど、中華のお店行こうってなって

加子       ・・・

未来       中華のお店

加子       ああ、うん中華のお店行ったんだ

未来       でもそこすっごい混んでたの。もう大渋滞

加子       へー

未来       後ろからもプップーって

加子       プップーって何?車で行ったの?

未来       テレビでやってたからなんだよね

加子       なにが?なにを?

未来       確か王様のブランチかな、そのお店、特集されてて

加子       あ、その中華のお店の特集やってたんだ

未来       だからめちゃくちゃ混んでてさ、でもそのお店の、前の歩道がすごく狭いの

加子       へー、え、どんくらい?

未来       狭かったなー

加子       ・・・

未来       あまりにも狭いから車道にはみ出ちゃう人もいてさ

加子       えー!!

未来       こんくらいだったよこんくらい!(手で5cmくらいの幅を表現)

加子       めちゃくちゃ狭いじゃん!こんなのみんな車道に出ちゃうよ!あ、てか、だからプップーって鳴ったのか!危ないよーって

未来       ま、実際は3人ぐらい並んでも大丈夫な道幅なんだけどね

加子       ええー・・・

未来       とにかく、行こうとしてた中華のお店に入れなくて困っちゃったの

加子       ちょっといいかな?

未来       ?(机の上にあるメニューを見て)

加子       私も今困ってることがあるんだけど。なんかさっきから無視してない?

未来       あ、チョコレートケーキ食べたい

加子       ああ、もう・・・!

未来       どこまで話したっけ?あ、中華のお店に入れないってところまでか!

加子       今日はもうダメだ

未来       それでさ、違うお店に行こってなったんだけど、どこ行ったと思う?

加子       ・・・

未来       どこでしょう?

加子       ん?

未来       どこ?

加子       急にすごい聞いてくる、私の話は聞いてくれないのに

未来       どこ?

加子       おそば?

未来       パスタ

加子       ちょっと惜しいよね?麺類だから

未来       パスタのお店に行こうってなったの

加子       ねえ聞いてよ

未来       近くに美味しいイタリアンのお店があったからそこ行ったんだけど、でもそこも並んでてさー

加子       (頷く)

未来       もうしょうがないからまたお店探して結局カフェに行ったの

加子       あ、入れたんだね

未来       でもね、彼氏がさ、やっぱいろんなところ歩き回ったから疲れちゃったみたいで、席着いたとたん背伸びしたの。そしたら店員が来ちゃってさー、まだ何頼むか決めてもないのに!だから彼氏慌てちゃって、お会計でって言っちゃったの!

加子       うん

未来       それでまたお店探しに行ったんだよねー

加子       出ちゃったの?ええ?せっかく入ったのに?

未来       あんなに歩きまわったのになー、だからさ、私今回のことがあって、彼氏と別れた

加子       え、別れちゃったの?

未来       だから合コン行ったの、新しい人見つけるために

加子       あ、合コン行ったんだ

未来       それで新しい彼氏ができたの

加子       出来たの!?すご!

未来       でも別れちゃったの

加子       ちょっと待ってよ!もう、もうわかんないよ!え、まず彼氏というか元彼?元元彼?あ、前元彼?よくわかんない、前の前の彼氏とお昼待ち合わせしたのっていつ?

未来       ・・・

加子       ねえ、聞いてよー

未来       なんの話?

加子       あ、チャンス来た。えっと、未来の前の前の彼氏がね、背伸びしようと手挙げたら(手を挙げる)間違えて店員が来ちゃったって日はいつ・・・

 

              店員が来る

 

店員       ご注文は?

加子       ほんとに来ちゃった

未来       チョコレートケーキで

店員       チョコレートケーキがおひとつ(加子を見る)

加子       あ、二つで

店員       チョコレートケーキがおふたつ。ご注文は以上でよろしいでしょうか?

加子       はい

店員       かしこまりました。

 

              店員、去る。

 

加子       あ、なんかすごい今会話することの喜びに気付けた

未来       なんか今とおんなじような体験したことある

加子       え

未来       あ、先週彼氏とお昼一緒に食べた時だ!

加子       それさっき話してたやつだよね?てか先週??

未来       こないだね、お昼彼氏と待ち合わせしたの

加子       数分前の記憶も無視?

未来       これさっき話したよね?

加子       あ、気づいてくれた良かったー

未来       ごめんね、最近さ、なんかメンタルやられてんだよね、ブレブレ

加子       先週だけで2人と別れてんだもんね

未来       なんか、今の彼氏がね

加子       あれ、3人目?

未来       間違えてお会計しちゃった人がね

加子       あ、1人目だった

未来       より戻そうってきたからまた付き合い始めたんだけど

加子       うん

未来       でも正直私他に好きな人がいるの

加子       それは・・・合コンの人?

未来       街コンで出会った人なんだけどね

加子       あ、3人目だ!

未来       でも私すごい懇願されたら断れなくて・・・どうすればいいと思う?

加子       う~ん

未来       私もうどうしたらいいのかな・・・

加子       そしたらさ・・・!

 

              遮るように店員がチョコレートケーキを2つ運んでくる。

 

店員       お待たせいたしました。チョコレートケーキです。

未来       めちゃくちゃおいしそう!

加子       ほんとにおいしそう!

店員       ご注文の品は以上でよろしいですか?

2人       はい!

店員       ごゆっくりとお召し上がりください

 

              店員、去る。

              2人、美味しいなど言いながらケーキ食べる。

 

未来       今度彼氏の元に好きな人連れてって、この人と付き合うことになったから別れよって言おうかな

加子       え、それはかわいそうじゃない?

未来       そうしよ!

加子       ほんとに聞いてくれない

未来       今日は話聞いてくれてありがと!加子はなんか最近あった?

加子       あ、聞いてくれるの!嬉しい!

未来       だって今日はそのために来たんだもん!

加子       ・・・えっとね、私も最近彼氏と別れそうっていうか、なんか物理的に会えなくなっちゃってね。ていうのも、彼氏と映画見に行ったんだけど、そこでパンフレットが盗まれたとかで店員の人とかが騒ぎ出して、犯人捜しが始まったら、なぜか彼氏が捕まっちゃったんだよね・・・

 

              未来は加子の話の途中で「トイレ」とボソッと呟きながら消える。

 

加子       ねえ聞いて!

 

22.「映画を見に来ただけなのに」

 

柳瀬

大松

 

茂木                     劇場スタッフ(チケットもぎり)

梶                        劇場スタッフ(販売員)

 

タクミ                 加子の彼氏

坂登 加子          タクミの彼女

 

影山                     劇場スタッフ(清掃ほか)

 

              こじんまりとした、町の映画館のロビー。

中央奥にはチラシ置き場やパンフレットが並び、その右手にレジ。

下手手前には入場口がある。横にはトイレに通じる道も。

上手手前に大きい観葉植物があり、その奥にはゴミ箱、さらにその奥は映画館の入り口や従業員の休憩室などへ続いている。

 

              「第一章 柳瀬のヒマの潰しかた」

 

柳瀬が下手奥から入ってくる。

 

柳瀬       僕はいま映画館に来ています。ここは映画館のロビー。今日この後、ここでとある事件が起きます。それに関していろんな人がいろんなことを言うでしょう。しかし、真相を知るのは僕ただ一人。

 

              電話が鳴る。

 

柳瀬       事件はこの電話から始まりました。

 

              柳瀬、電話に出る。

 

柳瀬       もしもし大松?え、遅れそう?もうすぐ始まるよ?おれ予告から見たいんだけど・・・わかったよ

 

              柳瀬、電話を切る。

              茂木が受付に来る。

              茂木はアナウンスを始める。

 

茂木       これより18時上演、芝浜ワークレボリューションの入場を開始いたします

柳瀬       僕は今日友達の大松と映画を見る約束をしていたんですが、どうやら遅れるとのこと。大松のチケットを持っているのは僕なので、ここで彼を待たないといけなくなりました。なので、暇つぶしにチラシを見ることにしました。

 

              柳瀬、チラシ置き場を物色。

 

柳瀬       当然ここにはたくさんのチラシがあるんですが、なんとこんな分厚い冊子も置いてあったんですね。僕はこれを見て思いました。やばくね、と。これが無料かもしれないってことですね。値札らしきものは置いてないしチラシは普通自由に取っていい、故にこれもタダ!と思って遠慮なく頂きました。

 

              柳瀬、そのパンフレットを鞄の中へと入れる。

              柳瀬の携帯が鳴る。

 

柳瀬       もしもし?え、まじ?間に合いそうにない!?どうすんの?・・・わかった

 

              柳瀬、電話を切る。

 

柳瀬       まだまだつかないとのことです。それで申し訳ないからスタッフにチケット預かってもらえないかと言われました。予告も見たい僕としては、当然聞きに行きました

 

              茂木が受付に現れる。

              柳瀬、受付へ

 

柳瀬       すみません、「芝浜ワークレボリューション」なんですけど、一緒に見ようとしてる友達が今遅れてて、それでここってチケットを預かって貰えたりとか出来ますか?

茂木       ご友人様のチケットのお預かりですね?

柳瀬       そうです!

茂木       無理です

柳瀬       普通に断られました。そりゃそうですよね、すみません

 

              柳瀬、受付から離れてLINEする

 

柳瀬       ダメだった、と

 

              LINEが鳴る。

 

柳瀬       (LINEを見て)え!?・・・思えばこのLINEこそが全ての始まりだったかもしれません。さっきあの電話が始まりとか言いましたが。いや、あの電話があったからこそこのLINEなのか?とにかく、彼から来た内容はこういうものでした。「どこかにチケット隠しといてくれないか?」

 

              「映画を見に来ただけなのに」とタイトルが映る。

              M。

              チケットの隠し場所を探す柳瀬

 

柳瀬       チケットを隠せと言われた僕は、1箇所候補を見つけ(観葉植物にサス)行動に移しました

 

柳瀬、観葉植物の元へ。茂木の隙を見て、観葉植物の鉢植えの下にチケットを滑り込ませる。そしてその箇所を近距離、中距離から写メする。

              茂木、柳瀬の様子を怪しむが結局気付かない。

 

柳瀬       隠し場所の写真も送ったところで、1つの考えがよぎりました。やっぱ待った方がいいのかなと。上映時間からもう15分、予告編も終わっていよいよ本編も始まりそうなので迷いなくチケットを隠しましたが、やっぱり友達として待った方がいいのかなと。なのでチケットを回収して待つことにしました。

 

              いつのまにか観葉植物付近にタクミと加子がいた

 

柳瀬       人がいたのでやっぱ入ることにしました

 

              柳瀬、劇場へ入る。

 

 

              「第二章 大松はチケットを取りたいだけ」

 

              大松がロビーに走ってくる。

              周りはそれに反応。

              大松はそれに気づき、何でもないですよといった表情でやり過ごそうとする。

 

大松       どうも、大松です。今ロビーをパッと見て、どうやら柳瀬はいないらしいことを確認しました。あいつマジで入ったのか!となると隠し場所は

 

タクミ   飲み物いる?

加子       あ、ほしい!

タクミ   じゃあ買いにいこっか

大松       お、ちょうど誰もいなくなるっぽいので良かったです

タクミ   何がいい?

加子       じゃあコーラで!

タクミ   おけ!

加子       ありがと!

 

              タクミのみ売店

              加子はスマホをいじりだす。

 

大松       2人で行けや!

 

              以降、大松と加子のセリフの裏で次のことが行われる。

              梶がレジに現れる。

              梶は先ほど柳瀬が持って行った山積みのパンフレットの上に「700円」と書かれた値札を置く。

              タクミは梶から飲み物を購入する。

 

大松       一人で待っててもヒマだろ。なんで待つんだ。あれか、浮気相手とLINEしてんのか!なに考えてんだあいつは!

加子       私は今、あの人なんかこっち見てる、キモっと思ってます。実はあの人がここに来たときからずっと視線を感じていました。それのせいで恐怖を感じちゃってだから動けずにいました。まるで蛇に睨まれた鼠のように。なんであの人はこっちを見てくるんでしょうか

大松       早くどかねえかな

加子       怖いです私

 

              タクミが帰ってくる。

              と、同時に清掃係の影山がロビーの掃除に来る。

 

タクミ   お待たせ~

加子       ありがとう!!

大松       帰ってくんな!

加子       あのさ、ちょっといいかな?

タクミ   なに?

加子       なんかさっきからあの人がこっちをジロジロと見てくるんだけど

タクミ   あの人?

 

              両者、目が合う。

 

大松       ん?

タクミ   てめえ何こっち見てんだよ!

大松       え?

タクミ   なんだよやる気かよこの野郎!

大松       うわ、やべえ奴だったやべえ奴だった!

タクミ   あんま見てっと土踏まずで口塞いで呼吸できなくすっぞ!

大松       独特な攻撃!

タクミ   おら!

 

              タクミ、ほんとにやろうとする。

 

大松       ほんとにやる気かよ!

タクミ   さっきからジロジロみやがってよお!

大松       キャラ変わりすぎだろ!

梶          すげえ

加子       タクミくん!?

茂木       お客様どうされました?

タクミ   あ、いえ、大丈夫です。(大松に)すみません、取り乱しました

大松       取り乱しすぎだろ!てか、こわ!!好青年に戻った!こわ!

タクミ   ですが、彼女も怖い思いを抱いてるんですよ

大松       は?

 

              影山、このあたりで観葉植物下のチケットを拾う。

              加子はそれに対して「すみません」などと言ってちょっとどき、

              その後はひたすらタクミの様子を見守っている。

 

タクミ   先ほどからあなたの視線を感じるとのことで

大松       ああ、そういうことですか。情緒どうなってんだ

タクミ   ですので、ぶん殴りにいこうかと

大松       いかれた発想してんな!もういい大人なのに!

タクミ   なんで、こっち見てたん?

大松       なんで訛ったんだよ!怖いだろ!いや、あそこに落とし物しちゃったんですよ

タクミ   落とし物?

大松       はい。でも、人がいるから、どうしようかなーと

タクミ   ああ、なるほど

大松       はい

 

              影山、このあたりではけていく。

 

タクミ   そっか~なるほどなるほど。いや、それなら先に言ってくださいよ!

大松       聞く気なかったろ

タクミ   なんか人いたら拾いにくいですもんね!すみません、失礼しました。では、どうぞ。彼女にもそう言っておきます

大松       ありがとうございます

タクミ   加子!この人別にやばい人じゃなかったよ!

加子       え?

大松       やばそな奴はお前

タクミ   なんかこの辺で落とし物しちゃったみたいで

加子       落とし物?なに?

タクミ   なんだ?なんですか?

大松       チケットです

タクミ   チケットなんですか。チケットだって

加子       チケット?

大松       はい

タクミ   じゃあどうぞ!てかチケット落ちてます?

大松       え?

 

              大松、チケットを探すが見当たらない。

 

タクミ   どこらへんですか?

大松       いや、確かここらへんに・・・

加子       ・・・さっき清掃の人が回収してたような

大松       清掃の人!?いまどこに?

加子       向こうの方に

 

              大松、影山がはけたほうへ急いで向かう。

 

タクミ   そういうの早く言ってあげないと

加子       ねえ、チケット落としたならすぐ拾わない?

タクミ   何疑ってるの?まあ確かにそうだけど、あ、それか、あれじゃない?あれ、そのーいつの間にかのやつだよ

加子       いつの間にか紛失してたのに気づいて、遠くからここに落ちてたのに気付いた?

タクミ   そう!そのパターン!

加子       ふーん

 

              大松、戻って来る

 

大松       チケットありました!すみません、ありがとうございます!

タクミ   ほら、ほんとにチケットじゃん

加子       (首をかしげる

大松       もうこんな時間か。じゃあありがとうございました!

 

              大松、劇場内へ。

 

タクミ   てか、おれらも早く入んないと!

加子       ああ、そうだった

 

              タクミ、加子、劇場内へ。

 

 

              「第三章 いつだって気付くのは梶」

 

              梶が茂木の元へいく。

 

梶          茂木さん!いまの人たちやばくないすか?てかあの彼氏!あの人やばすぎでしょ!なんか土踏まずで口抑えつけようとしてましたよ!全然意味わかんないんですけど!

茂木       声大きいって!聞こえちゃうから!

梶          いや、もう大丈夫ですよ!聞こえてないですってバカそうだったし

茂木       理由になってないから

梶          てか冷静に土踏まずで相手の口塞ぐってなんなんすかね?

茂木       知らないよそんなの。

梶          靴脱ごうとしてましたよ

茂木       そうね

梶          つまりは蹴りじゃなくてほんとに塞ごうとしてたんすよ?土踏まずで

茂木       なんかの映画で見たのをマネしたくなったんじゃない?

梶          どんな映画だよ!え、知ってますそんな映画?

茂木       わかんない、ミステリーしか見ないもん

梶          ああそうですよね。じゃあこの謎解決してくださいよ

茂木       なんの謎??

梶          なぜ土踏まずで口塞ぐという発想が生まれたのか

茂木       えー、得意技だったんじゃない?喧嘩とか、それか格闘技習ってて

梶          得意技って!いや、確かに彼女がいる前ですもんね。速攻で倒しておれは強いんだと証明したいはずです。ああいう喧嘩っ早い土踏まずは

茂木       なにそのあだ名

梶          すぐに自分の得意技をやって倒したいはずなんですよ土踏まずってやつは

茂木       土踏まずの何しってんの?ああ、なんか変な質問になっちゃった

茂木       でも思うんです、普通に蹴ろや!

茂木       私に言われても

梶          やるにしても相手を寝ころばしてからとどめの一撃でって感じじゃないんすかね?それを初手で、相手がまだ平然と立っているとこでやるって戦略的にもバカすぎるっていうか避けられたらどうするんだろう

茂木       そんなことより片付けはすんだの?仕事中だよ?

梶          ・・・あ、なんかお腹空いてきた。もう休憩入りません?

茂木       え?ああ、もうそんな時間か

梶          影山さん呼んできます

 

              梶、影山を呼びに行く。

              茂木、もぎったチケットの掃除をする。

              梶、影山がすぐに帰ってくる。

 

梶          影山さん呼んできましたー

影山       じゃあ休憩行ってきな!その間見張ってるから

梶          ありがとうございます!

茂木       すみません、いつもありがとうございます

 

              茂木、梶、去る。

              影山は適当な椅子に座り、腕を組んで真正面を見る。

              壁にかかっている時計が18時から19時半に進む。(時間進む演出)

              その間、影山は瞬きもせず、目を見開いたまま客席を見ている。

              茂木、梶が帰ってくる。

 

梶          影山さん!お疲れ様です!

茂木       影山さんありがとうございました!

影山       特段変なことは何もなかったよー

茂木       了解です!!

影山       それじゃあおつかれー

茂木・梶              おつかれさまです

 

              影山、去る。

 

茂木       それじゃあもうすぐ上映終了だから、それの前に片付けないと

梶          はい!

 

              茂木はもぎり付近を、梶は売店の整理をし始める。

              そのうち梶がチラシやパンフレットの数を数えだす。

              梶、パンフレットの残り数と売り上げ数が合わないことに気付く。

              何度も数える梶。しかし、数は合わない。

 

梶          ん!?

茂木       なに?どうしたの?

梶          いや・・・

茂木       絶対なにかあったでしょ

梶          ・・・パンフレットが一冊足りてないです

茂木       え、どういうこと?

梶          店頭にあるパンフレットが一冊無いんですよ!

茂木       ほんとに?

梶          はい

茂木       それって冗談じゃすまされないよね?

梶          ・・・こわ

茂木       いや、真面目に。もう一回数えてみて

梶          はい

 

              梶、パンフレットの枚数数えるが一部足りてない。

 

梶          やっぱ足りてないです。

茂木       なんかその辺に紛れ込んでないの?

梶          (見て)ないです!

茂木       もっと探してよ

 

              茂木、梶、一緒に売店周りを探すが、速攻顔を挙げて

 

茂木       ないじゃん

梶          ないです

茂木       どうすんのこれ?

梶          どうしましょう

茂木       休憩中に盗まれたとか・・・

梶          茂木さん、「見開きの影山さん」がいたんすよ?たぶんここで腕組んでずっと見張ってたんだからないですよ

茂木       たしかに。値札はずっと置いといたんだよね?

梶          ・・・はい

茂木       え?

梶          置いてありました。え、これっておれの監督責任みたいな感じですか?

茂木       もちろん

梶          うわ

茂木       監視カメラは?

梶          今、なんにも映りません

茂木       そうだった!画面真っ暗で使い物ならないんだった。倉庫には全部あったんだよね?

梶          ・・・昼飯食べる前に確認しました。全部ありました

茂木       じゃあ、ほんとに売店のパンフレットが一冊無くなっただけ?

梶          はい

 

              もぎりのとこからベルが聞こえる。

 

茂木       あ、とりあえずもうすぐお客さん出てくるから準備して

 

              茂木は入り口付近へ

              梶はゴミ箱を入り口付近に持ってくる。

 

梶          茂木さん

茂木       なに?梶君

梶          お客さんの中に万引き犯いるんじゃないんすか?

茂木       ・・・

 

 

 

              「第四章 犯人はこの中にいます」

 

              タクミとカコが出てくる。

              茂木はタクミらから飲み物を受け取り、ゴミ箱へ

              茂木、梶「ありがとうございました」などと言って二人を見送る。

 

加子       面白かったねー

タクミ   ほんと面白かった

加子       主人公が走るシーンとかすごいドキドキしちゃった

タクミ   確かにあのシーン良かった

加子       ねー、あ、この後どうする

タクミ   実は近くのレストラン予約してる、もうこの後すぐ

加子       え、ほんと?

 

              柳瀬、大松出てくる。

              加子・タクミはそれに合わせ、観葉植物付近に移動し、

「どこのレストラン?」などと話してる。

 

大松       なんか全体的にアクションシーン微妙じゃなかった?特に走るシーン

柳瀬       確かにカット割りとかイマイチだった、テンポ悪い

大松       臨場感がないんだよなー

茂木       みなさん聞いてください

他          ??

梶          茂木さん?

茂木       犯人はこの中にいます!

大松・タクミ       「は?」・加子     「なんの?」・柳瀬              「・・・」

梶          ミステリー映画の見過ぎでしょ

茂木       みなさん落ち着いてください!協力していただきたいだけです!

大松       あんたが一番騒いでいるからね

加子       すみません、えっと何か起きたんですか?協力って?

茂木       今日、この映画館で不審な人物を見かけた方はいらっしゃいますか?

加子       不審な人物?

大松       あんたが一番不審だけどね

タクミ   おれら特にそういう人見かけてないんでもう行ってもいいですか?このあと予定入ってて

茂木       どなたも見かけませんでしたか?

タクミ   見てないっす

柳瀬       あの、これって怪しい人を見たというか、この4人の中で誰が怪しいかってことですよね?

タクミ   は?

加子       どういうことですか?

茂木       いや、決してそういうわけでは

柳瀬       でも最初確かこの中に犯人がいますって言ってませんでした?

茂木       そうでした

大松       認めるのはや

加子       そろそろちゃんと言ってください。ここで何があったんですか?

タクミ   レストランに行きたい

茂木       実は先ほど、こちらにあるパンフレットが一冊紛失していることが発覚いたしました

柳瀬       !

茂木       当然私どもの過失ではあります。しかし、売り場や在庫を探してみても見つからず、帳簿の計算も間違いございません。そのため、盗難の被害にあった可能性も考えられます

加子       え!

大松       じゃあなに?結局この中に万引き犯がいるってことかよ

タクミ   あのさあ!監視カメラとかねえの?

柳瀬       !!(驚き、周囲を見渡す)

茂木       監視カメラは、あります

柳瀬       (監視カメラらしきものを見つけ驚嘆)

タクミ   じゃあそれ見れば映ってるでしょ

梶          実は今、なにも映らないんですよね

タクミ   は?

茂木       動くは動くんだよね?

梶          はい。でも画面真っ暗なんで、実質ないようなもんです

タクミ   なんだよ使えねえな

柳瀬       (安堵)

加子       倉庫とかにもほんとないんですよね?

茂木       なかったんだよね?

梶          ・・・ええ、はい、なかったです

大松       じゃあこの中に犯人いんじゃん

柳瀬       !!・・・すみません、今パンフレットの上に値札置いてますけど、これって最初からありました?もしかしたら、もし、値札置いてなくて、それ見てタダだと勘違いしたとか・・・

茂木       値札も最初から置いてありました、ね?

梶          はい、置いてあります

柳瀬       ほんとですか?

梶          はい、どうかしましたか?

柳瀬       いや、なにも

 

              サス。

 

柳瀬       お久しぶりです。万引き犯です。僕は今こう思ってます。やばくね?と。無罪を主張しようにも、値札が置かれていなかったことを認めない店員。このままだとマジで捕まっちゃう恐れがあるので、僕は人知れずにパンフレットを元に戻すことを決意しました

 

              地明かり。

 

茂木       皆様、当館の状況は分かっていただけましたでしょうか?それでお手数ですが、何か不審な動きを見かけた方は、教えていただけると・・・

タクミ   おれら見てないんでもう行っていいすか?このあと用事あるんですよ

大松       早く帰りたがってるこいつら怪しくね?

タクミ   は?

大松       なあ柳瀬?

柳瀬       ん?

タクミ   てめえ、どういうことだよ!

大松       悪かったって!突発的に切れすぎなんだよ!

タクミ   加子!早く行こうぜ!

 

              加子が手を挙げる。

 

加子       わたし、不審な動きしてた人知ってます

茂木       ホントですか?どなたでしょうか?

加子       あの人です(大松)

大松       は?おれ?

加子       あの人この映画館来たからずっと私たちのこと睨んできてたんです

大松       いやちょっと待ってよ、何言ってんの?

茂木       睨んでた?どういうことですか

大松       いやいやいや、チケット探してただけっていったじゃん

茂木       チケット探してた?

大松       ちょうどこの人たちがいたところにチケット落としちゃって。でもこの人たちいるから取りにくいなーって。だから見てたんすよ

梶          それは言えばよかったんじゃ?

大松       まあ確かに

他          ・・・

大松       え、ちょっとまってなにこの空気?てか、これパンフレット盗まれたのと関係なくね?

茂木       結局チケットはどうされたんですか?

大松       そこで拾う前に清掃の人に持ってかれたんだよ

加子       それもほんとなの?

大松       あんたが言ったんだろ!

加子       私はいたよってのを言っただけで

梶          じゃあ影山さんに聞くのが早いすかね

茂木       そうみたい

大松       影山さん?

茂木       うちの清掃担当してくださってる方です

梶          呼んできます!

 

              梶、はける。

 

茂木       少々お待ちください

 

              梶、影山イン。

 

梶          連れてきました

茂木       お待たせしました

茂木       はや!   大松       早すぎるだろ!

影山       はい、なんでしょうか

茂木       今日、影山さん清掃されたときにチケット拾われたりとかはしました?

影山       チケット?そんなのいっぱい拾うよ!床に捨ててっちゃう人ばかりだからね。ほんと困っちゃうよね。まあでもそういうゴミが無くなったら僕の仕事無くなっちゃうからそれはそれで困っちゃうよね!はは!

大松       よく喋るなこの人

茂木       場所はどちらでしたっけ?

加子       このあたりです!

茂木       影山さん、あそこでチケット拾われたりとかは?

影山       あの観葉植物のところ?ああ確かに拾ったよ拾ったね。でも拾ったというより引き抜いたという表現の方が正しいかもね!なんせ植木鉢の下に挟まってたからね!結構しっかりと挟まってたんだよ!だからこう引き抜いたんだよね!まるで巨人が丸を引き抜いた時みたいにね!・・・これは全然よくない例え

大松       1聞いたら12ぐらい返してくるな、てかうるさ!

影山       まあでもこれでチケットはほんとに落ちてたってことですね

加子       ・・・

梶          チケット落としただけで挟まります?あとふつうチケット落とした瞬間拾いませんか?

茂木       たしかに

加子       なんか怪しい

大松       は?

影山       確かに人工的に挟まっていた感じはあったな・・・

大松       いやたまたま挟まったんでしょ

タクミ   わかった。じゃあもう一回試そ!それでほんとに挟まんのかわかんじゃん!な?

全員       ・・・

大松       な?

加子       え、たくみくんどういうこと?

タクミ   いやもう早くレストラン行かなきゃ、予約の時間迫ってるし

加子       それはそうなんだけど

タクミ   だから試そって

加子       なにを?なに言ってんのか全然わかんないんだけど

タクミ   いやもういいよ、見てりゃわかるって、なんかチケット・・・あ、あった(自分のポケットから出す)

 

              タクミ、観葉植物の近くへ

 

タクミ   じゃあ(チケットを上に掲げる)

梶          あ、実際にチケットを落としてみて植木鉢の下に挟まるかどうか試すってことか!・・・言えよ!

タクミ   行きます!あ、落としちゃった!ひらりひらりひらりひらりひらりひらりひらり

 

タクミ、チケットが波打ちながら落ちる様を再現し、植木鉢にチケットをぶつけ、チケットは折れる。

              それを掲げて、

 

タクミ   チケット、入りません!

一同       おお

大松       なんだよこれ!

加子       これで一段と怪しさが増しました

大松       は?

茂木       えー、

大松       ?大松です

茂木       大松さん、率直に聞きます。パンフレット盗んでませんよね?

大松       まじで言ってんの?おい柳瀬!お前からも何か言ってくれよ!

柳瀬       え、おれ?

茂木       あれ、そういえば柳瀬さん?

柳瀬       はい?

茂木       確かご友人のチケットを預けたいときましたよね?

柳瀬       はい

茂木       そのご友人はこちらの大松さんでよろしいですか?

柳瀬       ・・・はい

茂木       いつ頃チケット渡されたんですか?

柳瀬       それはあなたにチケット預けられますかと言った後に

梶          じゃあそれを言った後に大松さんにチケットを渡したと。それでそのあと大松さんはあそこでチケットを落とした。それで、あ、チケット落としたときは結局なんでしたっけ?気付かなかった?

大松       まあはい

梶          それでどうしたんですか?

大松       いったん違うとこ行ってて戻ってきたらあのカップルがいて

梶          それはどこに?

大松       いったん外にかな

影山       んーそれは違うかな。その大松さんという方は今日はまだ一回しかこの映画館の扉を通ってないよ、僕のこの目をかいくぐらない限りはね

大松       え

梶          それじゃあ外に出てったってのは嘘になりますね、ほんとはどこに?

大松       は?いや、さっきからなんなんだよ、なんでこの人が言ったらウソになんだよ

梶          この人は清掃のほかに劇場入り口のとこに待機して来場者の様子を確認してるんですよ。通称見開きの影山さん。目を見開いてチェックしてるからですね。特に今は監視カメラも壊れてるんで大変重宝しています

大松       見開きの影山・・・

梶          それでほんとはどこに?

大松       あ、思い出したトイレだったかな

梶          トイレ?

影山       トイレなら入場口横だからわからないな

加子       え、でもこっちから来ませんでした?

タクミ   確かに

梶          大松さん、ほんとうですか?

大松       ・・・わかったよ!なんだよ!なんでこんなに追い詰められてんの?もういいよな?柳瀬?

柳瀬       え

大松       ほんとは、ほんとは柳瀬にチケットを隠してもらってたんですよ、あそこに。今日遅刻しちゃったんで、でもこいつは予告から見たいやつなんですよ。だからチケットどっかに隠したら先に入っていいよって。おれそこから取るからって。で、いざきたらほんとにチケット隠してあったけど、このカップルがいたからどかねえかなーって思ってたんです!はい、全部言いました!

全員       ・・・

茂木       柳瀬さん、ほんとうですか?

柳瀬       はい

梶          ・・・確かにこれなら全部説明は通りますね

茂木       うん

加子       なんでそれ早く言わなかったんですか?

大松       だってそりゃまあなんかやっちゃいけなさそうじゃん

加子       たしかに

 

              柳瀬、大松以外が大松を見る。

 

大松       え、まだ怪しんでんの?

柳瀬、大松以外   ・・・

大松       わかったよ!じゃあもう見ろよ!ほら!!

 

              大松、持っていたカバンを広げ中身を見せる。

 

大松       パンフレットなんて入ってないからよ!ほら!

 

              大松が鞄を投げ、梶が受け取る。

 

梶          え、これ・・・すみません(鞄の中身を見る)たしかにパンフレットは入ってないですね。わかりました、すみません変に疑ってしまって。申し訳ございません

茂木       申し訳ございませんでした

影山       (一礼)

大松       返してください

梶          ああ、すみません(鞄渡す)

大松       おれはあの二人が怪しいと思います

加子・タクミ       はあ?

大松       この中に万引き犯いるんすよね?無駄におれ追い詰められてむかついてるんで絶対そいつ許さないです。そしておれが怪しいと思ってるのはあいつらです

タクミ   てめえなに言ってんだよ!

大松       じゃあバッグん中見せろよ!

タクミ   あ?

大松       見せてみろよ!

加子       え、何言ってんの?

タクミ   だったらそいつから先に見せろよ!

柳瀬       おれ?

大松       柳瀬が盗んでるわけねえだろ!

柳瀬       ・・・

大松       柳瀬、バッグの中見せて差し上げろ

柳瀬       !!

大松       それでおれらの潔白が証明されるからよ

柳瀬       いや・・・

大松       てか、ほんとに盗んだんじゃねえの?さっきから帰りたがってるし、転売目的で盗んだんだろ!

タクミ   お前ふざけんじゃねえ!!!

 

              タクミ、大松に殴り掛かろうとする。

              加子や梶がタクミを止めにかかる。

              タクミは靴を脱いで土踏まずで大松の口を塞ごうとしたりもする。

              茂木や影山はその様子に驚いている。

 

大松       なんでこんな暴力的なんだよ!

加子       根はやさしい人だから!

大松       は?根が優しいなんて人間当たり前だから!表面も優しくしとけ!!

タクミ   ひゃっはー!!

 

              いざこざは続く。

              不意に柳瀬の元にタクミのバッグが来る。

              棚瀬、それを開く。

              すると中から大量のパンフレットが、

 

柳瀬       なにこれ!?

茂木       ?

柳瀬       パンフレットがいっぱい入ってる

全員       !?

タクミ   おい!返せよ!!!

茂木       えー、タクミさん。すみません、下の名前で。これはどういったことでしょうか?いつご購入されたものですか?

タクミ   ・・・こないだだよ

茂木       こないだというのは?

加子       タクミくん、言ったよね?もうやらないって言ってたよね?

タクミ   いや、これは違う

加子       タクミくん!!

タクミ   ・・・

他          ・・・

茂木       ・・・えー、これは一体どういうことでしょうか?

加子       タクミくん、昔からちょっと手癖が悪いとこがあって・・・これもそういうことだよね?

タクミ   ・・・

加子       タクミくん!

タクミ   ・・・いや、まあ、そうだけど・・・

加子       (落胆)

茂木       ・・・お客様?

加子       タクミくん、店の商品盗んで転売しちゃうっていう癖があるんです

全員       !!!

梶          癖とかじゃあないでしょ

大松       予想当たっちゃってんじゃん

影山       まさかの展開ですな

加子       タクミくんが犯人だったんだよね?

茂木       タクミさん?

タクミ   ・・・確かに、確かにおれは今日も盗んだ。でも今日で最後にするつもりだったんだ!いつもおれの手癖の悪さで加子に迷惑かけちまってるし。

梶          手癖の悪さ

タクミ   だから今日を最後に、決意表明としてこのあとレストラン予約したんだ

大松       卒業祝いみたいな?

加子       私、今日レストラン予約したって言ってくれてすごく嬉しかった。私も祝おうとしてたんだもん!ねえ、こないだで最後って言ったじゃん!どうして?ねえどうして!?

タクミ   ごめん!加子ごめん!!

大松       謎の修羅場

タクミ   今日早く映画館着いた時、つい倉庫の扉が開いてて、だからやっちゃった

茂木       倉庫の扉が開いてて?え、倉庫にあったパンフレットを盗んだんですか?

タクミ   はい、倉庫んとこからくすねました

茂木       もう窃盗じゃん!てか、倉庫にあるパンフレットは全部あったんじゃないの?

梶          ・・・

茂木       お昼食べる前に確認してたよね?

梶          ・・・

茂木       何確認したの?

梶          なーんにも

茂木       なんで!

梶          アルバイトなんで

茂木       もう!

影山       とりあえず警察を呼んできますよ

 

              影山、上手へ消えていく。

 

茂木       ありがとうございます!でもまだ万引き犯が分かってないってことだよね

梶          やっぱとりあえず監視カメラになんか映ってないかだけ確認してきます!もし動いてたなら万引き犯映ってるはずなんで!

 

              梶、下手へはけていく。

 

茂木       タクミさん、とりあえずこちらへお願いします。もう少しお話伺いたいです。

タクミ   はい

加子       ・・・

 

              茂木、タクミ、加子、上手へ行く。

              柳瀬、大松、取り残される。

 

大松       おれ、トイレ行きたい。お前は?

柳瀬       おれはいいや

大松       ん

 

              大松、下手へ消えていく。

 

柳瀬       ・・・

 

              柳瀬、唐突に鞄からパンフレットを取り出し、元の場所へ戻す。

 

柳瀬       っしゃああああああああ!!!!!!!!(思いっきりガッツポーズ)

 

              柳瀬、平常に戻る。

 

柳瀬       トイレ!

 

              柳瀬、下手へ。

              舞台上に誰もいなくなる。

              そこに梶が走ってくる。

 

梶          茂木さーん!カメラ映ってた!!(誰もいない舞台上を見て)みんなどこ?

 

              梶、上手へ走り去る。

 

梶          あいつが犯人だー!!!!!

 

21.「軽減税率家族」

 

              軽減税率の説明の図

 

「軽減税率とは、2019年10月に消費税率が8%から10%に引きあがるとともに導入される新たな税金である。食料品購入の際に、店内での飲食なら消費税率10%、持ち帰りなら軽減税率8%が適用されるといったものである。消費税もしくは軽減税率がかかる基準が非常にあいまいなことが問題視されている。」

 

リリーフランキーみたいな父親と、「万引き家族」に出てくるあの少年みたいな少年が、チェーンフード店の前にいる。

 

リリー   おい、準備はいいか?

少年       うん

 

              「万引き家族」で万引きする前にやってた儀式的なことする2人。

              2人、店員の元へ

 

店員       いらっしゃいませ

リリー   ハンバーガーセット2つで

店員       かしこまりました。お飲み物はいかがされますか?

リリー   ほら、何がいいんだ?

少年       コーラ

リリー   へへ、コーラ2つで

店員       コーラで。サイズはどうされますか?

リリー   Mサイズ、2つとも

店員       かしこまりました。お食事は店内ですか?それともお持ち帰りですか?

 

              2人の鼓動が聞こえてくる。

              鼓動が激しくなってくる。

 

リリー   お持ち帰りで

店員       かしこまりました、こちらの番号札を持ってお待ちください。(014と書かれた札)

2人       (一息つき、目配せし、待つ)

 

              014番の番号札が呼ばれるアナウンス。

              2人がカウンターへ

 

店員       お待たせいたしました。こちらバーガーセット2つになります。

リリー   ありがとうございます。

 

              2人はそそくさと店外へ。

              2人は店の外周を周り、もう一つの扉から再び店内へ入ってくる。

              そして空いてる席に座る。

 

リリー   ほら、急いで食べろ

少年       うん

 

              2人、食べだす。

              店内を掃除する店員が2人を見る。

              2人が持ってるものが持ち帰り用なことに気付き、話しかける。

 

店員       お客様、失礼いたしますが、そちらお持ち帰り用の商品ですよね?それでしたら店内でのご飲食はお控え願えますか?

リリー   も、もうすぐ出てくんで

店員       お客様困ります。もし店内でのお食事でしたら軽減税率8%ではなく、消費税率10%でのお支払いとなりますので

リリー   だからもうすぐ出て行くんで!!

 

              そういってめちゃくちゃ食べる2人。

 

店員       お客様、いい加減にしてください!

リリー   まだ、まだ息子が食べてる途中でしょうが!!

店員       家で食べろよ!!!

 

20.「存在保険」

 

相山

浜岡

 

              喫茶店。夜。

              2人のスーツ姿の男が席に座って話している。

 

浜岡       つまり、人生100年って考えると長いけど、それも3つ、3つに区切ることができるんだ

相山       うん、なるほどね

浜岡       その区切られたところってのが大きく環境が変わるタイミングで、それを、人生の転換点って言うんだよ

相山       人生の転換点

浜岡       その転換点ってのが、就職、結婚、そして定年退職

相山       なるほどな、人生0から100年の中で(手で表現)就職、結婚(ここらへんかな?)、定年退職と

浜岡       そう!

相山       4つじゃん!

浜岡       え

相山       3つじゃなくて4つに区切っちゃってるじゃん!

浜岡       どういうこと??

相山       さっき人生は3つに区切ることができるって言ってたけど4つに区切っちゃってるじゃん!!

浜岡       ・・・どういうこと???

相山       なんでだよ!え、転換点はいくつだっけ?

浜岡       3つ

相山       だろ?じゃあこう人生があって転換点3つあるとしたら、(4つに区切られてることを表現)ほら!4つじゃん!(それがまるで指揮者みたいな動き)

浜岡       つまり、オーケストラの指揮をするってこと?

相山       どうしてだよ!!なんで急にオーケストラの指揮者の話になるんだよ!つまりオーケストラってなんだよ、なにもつまってねえわ!

浜岡       だって動きがもう

相山       これは人生が何分割されてるかを表してんの!さっきまで保険の話してたのに急にオーケストラの話しだしたら頭おかしいだろ

浜岡       頭おかしいと思った。まあまあまあ、でも、時にね、時に、時によ?

相山       時になんだよ

浜岡       引っ越しとか、出産、転職も転換点になりうるんだよ

相山       ええええ、そんなの話変わってきちゃうじゃん!転換点いくつ増えてんだよ!もう人生何分割?7分割ぐらい?てか、なんだったんだよこれまでの時間は!どうでもよかったじゃん!

浜岡       実際どうでもいい話ではあったんだよね

相山       は?

浜岡       じゃあ本題に入るわ

相山       ちょっと待ってよ、転換点の話はどうでもいいの?

浜岡       いや、関係あるっちゃあるよ

相山       思いっきりあれよ!

浜岡       落ち着けって。じゃあここで一つクイズ出すわ。

相山       クイズ?

浜岡       クイズ、クイズクイズ、クイズ

相山       わかったよ、なんだよ

浜岡       どの転換点あたりからお金がかかりだすでしょうか?

相山       お金がかかりだす?・・・就職とか結婚したあたりから?

浜岡       そう!大体独り立ちしたぐらいからなんだ

相山       そう

浜岡       仕事でお金は入ってくるけれど、給料は少ないし、税金でだいぶ持ってかれる。2年目からは住民税も引かれるしな。それに一人暮らしだったら家賃とか生活費もかかる。

相山       そうだよなあ

浜岡       そしてその時期から増えてくるのが冠婚葬祭だ。

相山       ああ~

浜岡       参加するならまだしも、もし自分で結婚式とか、まあ葬式とか、開く立場になったらいくらぐらいかかると思う?

相山       どんくらいなんだろう、全然わかんない

浜岡       大体300万円だ

相山       そんなにかかるのか、まそっか

浜岡       ところで、将来的に家とか車は欲しいと思ってる?

相山       まあ、ほしいとは思ってるよ

浜岡       そうだよな、でも、当然それらを購入するにもお金はかかるし、購入後ももし万が一にも火事とか交通事故にあったら、その対応にもお金はかかる。そして

相山       まだ!?

浜岡       お前が怪我しちゃって入院ってときにもやっぱりお金がかかる

相山       ちょっともういやだわ

浜岡       そうだよな。でも、生きてくだけでもそんだけお金がかかる機会があるってこと

相山       ・・・

浜岡       で、問題はここからなんだ。例えばさっきいった結婚とか怪我で費用がかかるってときに、すぐパッっと何百万とか用意できる?

相山       出来ない

浜岡       出来ないよな。そりゃ貯蓄とかあるだろうけど、一度にいくつものそういった機会があるととたんにお金がなくなる

相山       やばいじゃん

浜岡       そう、やばいんだよ

相山       どうすんの

浜岡       解決する方法がある

相山       それが・・・

浜岡       そう、保険だ

相山       まだ言ってないけど

浜岡       お金が必要な時に役に立つ、それが保険なんだよ

相山       なるほどなー

浜岡       ま、大体こんな感じで営業してるわ!!

相山       いやーすごいわー

浜岡       そう?

相山       立派な営業マンになってんだもん。まあでもそうか、もう3年になるもんな

浜岡       お前だってそうだろ?映像制作会社で、なんかもう自分の企画通して、こんど監督やるらしいじゃん

相山       まあね

浜岡       すごいじゃん

相山       いやでも、ていうか最初の区切りってあれは何?わざとなの?

浜岡       あれは、わざと

相山       わざとなの!?

浜岡       ああいう会話で盛り上げてからの、保険がいかに必要かって説明よ

相山       すげえわ!でも確かに、後半すげー聞き入っちゃったわ

浜岡       だろ?

相山       前半は頭いかれてんのかと思ったけど

浜岡       (笑う)

相山       でも正直、今の話聞いておれも保険入ろうかなって思った

浜岡       お

相山       実際必要?

浜岡       それはおれからしたら必要だよな

相山       あ、そうだよな

浜岡       どうする?もうちょっと詳細聞く?

相山       いい?

浜岡       いいよいいよ、じゃあなんだろう、なんの契約がいいのか・・・

相山       おすすめのは?

浜岡       おすすめって言ったらこれだな(鞄から「終身名誉プラン」と書かれたフリップ出して)終身名誉プランだ。

相山       すごいの出てきた

浜岡       いつもこれ使って説明してるから

相山       なんか楽しいことやってんな。というかなんだこの名前、ふざけてんの?

浜岡       ふざけてないって。内容が充実してるからこの名前なんだよ。このプランは月額一定料金で一生涯の保証を得られるんだ

相山       うん

浜岡       さっき言った怪我とか火事、事故を起こしたときとか冠婚葬祭とか、そういった費用がかかる機会全ての保障を得られる

相山       全て!?

浜岡       全て

相山       ほんとに?

浜岡       名誉だろ?

相山       意味わかんない。保険料は?

浜岡       月額20万

相山       20万!?

浜岡       20万

相山       20万か~ごめん、ちょっとまだ全然よくわかんないわ

浜岡       あ~、ごめん、今詳細書かれたフリップない

相山       まじか~?じゃあそのフリップしかないの?

浜岡       そうだな

相山       なんでだよ、なんでそのフリップだけあんだよ

浜岡       他は忘れたみたい

相山       それだけ持ってくるのすごいな。いやでも、20万か~かなり生活切り詰めないとなー

浜岡       まあな

相山       でもおれ、妻には美味しいご飯連れてってあげたいし、子供にはいい学校出てほしいし・・・

浜岡       え、お前結婚してたっけ!?てか、子供もいんの!?

相山       いやあ

浜岡       ん?子供は?

相山       いない

浜岡       奥さんは?

相山       いない

浜岡       独り身かよ!

相山       彼女はいるよ

浜岡       いんのかよ!!

相山       いんのかよってなんだよ

浜岡       ああ、なんかもうよくわかんない

相山       でも、保険てそういうことだろ?家族のためにって

浜岡       ああ、そうだ

相山       てことで、月々の保険料を払うには今のままだと生活を切り詰めないといけない。だから、まずなんだ?生活費か。節約だな。それに携帯も今よりもっと格安プランにしよう。それと、配信サービスか

浜岡       配信サービス?

相山       ネットフリックスとかアマゾンプライムとか

浜岡       ああ

相山       Spotifyとかアップルミュージックもか。うわーこれ全部解約かー

浜岡       全部解約する必要ある?

相山       これでもまだ保険料抽出できるかわかんないわ。あと削るとしたら・・・飲み会か。飲み会に参加するのもうやめよう。てなると外出する必要がなくなるな。そうすると家でめちゃくちゃ暇になる。暇なときには、そうだネットフリックスだ!でも解約するんだった!くっそ!!

浜岡       どうしたどうした?急に何?

相山       いや、解約すること思い出して

浜岡       ああ

相山       でも飲み会費用削ってもまだわかんないな。ほかは・・・あ、旅行も控えるか。旅行に行くのももうやめよう。そうすると外出する機会がなくなるな。だったら家でめちゃくちゃ暇になる。暇なときには、そうだネットフリックスだ!でも解約するんだった、くっそ!!!

浜岡       待って待って、え、さっきと同じことやってんだけど!

相山       ごめん、解約すること思い出して

浜岡       なんですぐわすれちゃうんだよ、にわとりかよ

相山       いやー参ったなー

浜岡       ネットフリックスだけ残してたら?

相山       いや、それだと保険料払えない

浜岡       まじ?

相山       それに正直もうちょっと削らないと。映画館行くのもやめるか。すると外出する必要がなくなるな。それじゃ家でなにしてる?・・・ネットフリックスがあるじゃん

浜岡       おい

相山       家でずっとネットフリックス見てればいいんだな

浜岡       おい

相山       いやーすごい時代だわ。家にいながら大量の映画がいつでも気軽に見れるなんて

浜岡       今お前の頭の中はどうなってんだ

相山       よし、ネットフリックスを見よう!あ、でも解約するんだった。ちくしょー!!!!!

浜岡       おい!やめろって!他のお客さん見てるから!

相山       どうすりゃいいんだー

浜岡       落ち着けって!

相山       どうすりゃいいんだよ

浜岡       本とか読んでろよ!

相山       本!?あ、そうだよな本があるわ。最近は本の配信サービスもあるし。キンドルを有効に活用していこう。紙の本だと高いしな・・・お前まさかキンドルまで奪うつもりか?

浜岡       奪わねえよ。奪うってなんだ

相山       キンドルはやめてくれよ!!おれから趣味を奪わないでくれ!!

浜岡       何も奪ってないから!お前が勝手にやめようって言ってるだけだから!

相山       うわああああ

浜岡       だからやめろって!てか、キンドルってアマゾンプライムとアカウント共有してるだろ?ならアマゾンプライム解約したらキンドルもつかえなくなるんじゃ?

相山       ・・・うわあああ

浜岡       いい加減にしろよ!

相山       どうすりゃいいんだ・・・

浜岡       さっきから余計な心配しすぎなんじゃないか?

相山       余計な心配?

浜岡       そ、まだどうなるかわかんないことをあれこれ想像してもしょうがないだろ?

相山       まあ

浜岡       ところで、そんなお前におすすめのプランがあるわ

相山       なんだと?

浜岡       とりあえず座ろう

相山       おう

浜岡       これがお前におすすめのプランだ(「存在保険プラン」と書かれたフリップを出す)

相山       え、フリップあったじゃん

浜岡       こういう漢字のだけあった

相山       よくわかんないわ・・・存在保険プラン?

浜岡       そう、存在保険プラン。基本的に一人分の保障内容で、怪我した場合に保障される。

相山       怪我だけか

浜岡       ただ、お前が結婚したりとか、車を購入したとき、この保障内容だと不安だよな?

相山       ああ

浜岡       そういったときに効果を発揮するわ。結婚とかで保障が必要となる対象が増えた場合、存在が確認された場合に、保障内容が拡充されていくんだ

相山       おお

浜岡       その分保険料は増えていくけどな

相山       そもそもは?

浜岡       月々6千円

相山       6千円!?

浜岡       6千円

相山       6千円って、めっちゃ安いじゃんさっきのより!

浜岡       そうだな

相山       うわーすごい商売だわ。先に15万からの6千円だからね?

浜岡       いやあ

相山       ええ、入っちゃうじゃん

浜岡       お

相山       どうしよ

浜岡       でもこっちならネットフリックス解約せずに済むんじゃないか?

相山       入る

浜岡       まじ?

相山       まじ

浜岡       まじかーわかった。じゃあこれに記載をしてくれ(契約書を出す)

相山       ん?これは?

浜岡       契約書だ

相山       契約書?なんか用意がいいな

浜岡       こういうこともあるかもと思って

相山       あるかもって、え、何?契約させる気だったの?

浜岡       どうしたんだよ

相山       いやいや、久しぶりに飲もうぜって来たら営業かよ

浜岡       いや、違うって。じゃあ今度また会おうぜ

相山       ・・・

浜岡       てか、俺もう行くわ

相山       え?

浜岡       ごめんな、別件があって。久しぶりに会えてよかったわ。勘定はここ置いとくな。

相山       ああ

浜岡       というか実際契約してくれてありがとな。

相山       いや、おれも保険の仕組みとか説明してくれてありがたいとは思ってるよ

浜岡       おお、それなら良かった。おれも今月数字厳しかったから

相山       おい

浜岡       それじゃあ行くわ

相山       そういうことを言うなって

浜岡       ?

相山       なら最初から言えばよかったんじゃない?数字厳しいから契約してくれって。なんかおれのこと親身になって考えてくれてると思ってたのに

浜岡       いや、考えてるよ

相山       最初からこいつは契約結ぶだろって軽く考えてたんだろ?なんていうか、おれはさ、それこそお前にとって保険みたいな存在だったんだろ?

浜岡       ・・・

相山       いや、これも余計な心配か!