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27.「おことわり」

    相山       鉄男

 

              三津目 未来

    柴宮       たかし

             

              半          ソロ太

             

              石尾       瓜子

             

              金田       正太郎

 

              どこかの喫茶店

              舞台中央の机を囲って、下手側から相山、柴宮、未来の順に座っている。

              3人ともケーキを食べている。

 

未来       やっぱりこのケーキそんなに甘くなくておいしいね

相山       理由になってなくない?

未来       え

相山       甘くないから美味しいの?

未来       甘すぎるケーキってあるじゃん、なんかもう砂糖使いすぎてべちょべちょみたいな。でもこれはさっぱりしてるっていうか

相山       ふーん、まあでも、おれはもうちょっと甘くてもいいな。甘やかしてほしい

未来       わかった

相山       なにが?

未来       わたしたちもう別れよ

相山       え、急に?

未来       なんかもういろいろ合わない気がして

相山       そんなことは・・・

未来       それにわたしほかに好きな人が出来たの

相山       ほかに好きな人?

未来       それがこの人

柴宮       どうも

相山       わーお

未来       それで本題にはいるんだけどね

相山       本題!?今からが??今までの全部アイドリングトークだったの?

未来       ねえ聞いて

相山       いや、まだ別れることも受け止めきれてないんだけど

未来       鉄男くんにぴったりなものがあって、今日はそれを勧めに来たの

相山       勝手に進めないでよ

未来       それがこれなんだけどね(チラシを見せる

相山       なにこれ?

未来       挑み続けろ!今日からも君もポジティーバーっていうセミナーなんだけど、何事もポジティブに考えようってことを学ぶセミナーなの

相山       ユーチューバーってこと?

未来       ちがうポジティーバー。物事をポジティブに考えられる人のことをポジティーバーっていうの

相山       ふざけてんの?

柴宮       僕が講師をしています

相山       お前がやってんのかよ

未来       お前なんて言わないで、柴宮たかしってちゃんと名前があるんだから

柴宮       いいんだよ未来、僕は全然気にしてないから

未来       たかしさん

柴宮       なんてったって、僕はポジティーバーだからね

未来       たかしさん!

柴宮       全てを肯定的に考えよう!(めっちゃ笑う

未来       (それにつられてめっちゃ笑う

2人       (とにかく笑う)

未来       (笑うのを唐突にやめて)どう?

相山       何が!?

未来       セミナー参加しない?

相山       お断りします

未来       ひどい!鉄男くんのこと考えて勧めたのに!

 

未来、立ち去る

 

柴宮       待って!これもきっと何かしらポジティブなメッセージが込められているから!

 

柴宮、未来を追いかける

相山、その様子を眺めてる

 

相山       こんな感じだったわ

半          すごい体験したな

 

              照明変化

              半が現れて席に座る。半は眼鏡を掛けている。

 

半          まあでも結果的に別れてよかったんじゃない?

相山       ・・・

半          それで行ったの?セミナー

相山       行くわけないでしょ

半          なんだよ、面白そうじゃん

相山       は?

半          なんならまじで今のお前にはぴったりだったんじゃない?ほら、今もすごいネガティブな感じがするし。溢れちゃってるよネガティブな感じが。もうお前はネガティーバーだ

相山       うるせえな

半          ああ、溢れた。言葉として溢れた。てか、新しい彼氏って待ち合わせした時からいたんでしょ?なんとも思わなかったの?

相山       うーん、まあ

半          絶対変でしょ

相山       守護霊か何かかと思った

半          なんだその発想!

相山       あんまし触れちゃいけないのかなって

半          相山って霊感あんだっけ?

相山       いや、ないけど

半          じゃあなんでその発想出たんだよ。あ、最近なんか不思議な体験したからとか?

相山       不思議な体験?そういえば、こないだ出張でホテル泊まった時に変なこと起きたわ

半          なに?

相山       部屋にベランダがあって、その時ちょうどなんとか流星群が見えるらしくて、だから見てたの。しし座かな?しし座。ベランダで。で、見えたんだよ

半          すごいじゃん

相山       そう!で、やっぱおさめたいじゃんこの瞬間を。だからスマホ取り出したんだけど、なんかカメラ起動してもホーム画面に強制的に戻されちゃったんだよね。あれ、なんで?と思って他のアプリも起動してみたら、それも全部ホーム画面に戻っちゃうの強制的に。なんにも起動できない。下のボタンも触ってないのに。おれは早くしし座流星群撮りたいのにね。ただ、まだまだ降り注いでるわけよしし座は。だからいったん冷静になって、部屋の中入って起動してみたの。そしたら普通にカメラ使えたんだよね。写真も撮れたし。だからまたベランダ行って撮ろうとしたら、また急にホーム画面に戻っちゃって。それでもう結局部屋の中から撮ったんだよね

半          あ、撮れたわ撮れたんだ

相山       そうそう

半          良かったじゃん。

相山       これね(写真を見せる)

半          へー

相山       まあでも怖かった

半          それ以来ホーム画面に強制的に戻されたことは?

相山       あった、一回

半          いつ!?

相山       スカイツリー登ったとき

半          具体的には?

相山       展望台から景色を撮ろうとしたら

半          そんときってなんか持ってた?

相山       なんか持ってた?

半          なんだろ、何か特別の品物っていうか

相山       手すりはもってたんじゃない?

半          なるほど

相山       今わりとふざけて言ったんだけど

半          相山

相山       なに

半          スキルスメンって知ってるか?

相山       まったく知らない

 

              M

 

半          スキルスメンってのは特殊能力を持った人たちの総称のことだ。相山、驚かずに聞いてくれ

相山       もうすでにいろいろと驚きなんだけど

半          この世界に能力者は実在する

相山       あれあれ

半          誰しもが能力者ってわけじゃない。資格がいるんだ。その資格を手に入れた人だけが能力に目覚めている。相山、ついてきているか

相山       (飲み物を飲んでいた)おえ、ああ

半          その資格ってのは人によって違っていて、何も特別なものではない。石だったり、マスクだったり、そして手すりだったり

相山       (飲み物を飲んでいる)これ甘くておいしい

半          相山、お前は資格保有者なんだよ

相山       手すりに触れている間だけ、スマホを使わせなくなる能力?

半          間違いない

相山       ダサいも通り越しちゃってるな

半          相山、折り入って話がある

相山       (飲み物を飲んでいるが、もう氷しか残っていないためストローで吸ってもズルズルといった音しか出ない)

半          相山

相山       (ズルズル)

半          相山、それやめてくれないか?

相山       え

半          音だすの

相山       あ、ごめん

半          お前それフランスだったら逮捕されるぞ

相山       まじ?テーブルマナーに厳しすぎて?

半          どこまで話したっけ

相山       ちょっと質問いいか?

半          おう

相山       お前も能力なんか持ってんの?

半          ああ、しょうがない話そう。おれの能力は完全(オール)無視(ナッシング)。おれが行った行為を見なかったことにする能力だ

相山       無かったことにすんの?

半          いや、見なかったことにする

相山       は?

半          相手の記憶を改ざんするんだ。例えばお前が「おはよう」って言ったことに対しておれも「おはよう」って言ったとする。そこでこの能力を使うと、お前の中でおれが「おはよう」ではなく無視をしたという記憶に改ざんされるんだ

相山       それってただ印象が悪くだけなんじゃ

半          そうだ

相山       いいのかよそれで

半          そういう能力なんだからしょうがない

相山       わかった、今日の話聞かなかったことにするから病院行ってくれ

半          (眼鏡をくいっとする×3)

相山       ??

半          いま、お前の記憶を改ざんした

相山       お前の資格は眼鏡なのか

半          ああそうだ。

相山       なにも起こった気がしない

半          お前の記憶の中でおれが無視した瞬間が実は改ざんされた記憶かもしれないとでも思っといてくれ。それで能力を信じてくれたところでなんだけど

相山       なにも信じてない

半          おれはいま、スカルスガルドっていう組織に所属している

相山       (飲み物をすすりだす)

半          資格保有者たちを守るために存在している組織だ

相山       あそう

半          スキルスメンの存在を世間から隠したり、また保護をしている。やっぱり能力を悪用するやつもいてな。そいつらの監視も行っているんだ。それでなんだが、相山、お前もスカルスガルドに入ってくれないか?

相山       ・・・

半          おれと一緒にスキルスメンを、この世界を守ってくれないか?

相山       少しだけ時間をくれ

半          ・・・そうだな。考えてみてくれ。おれはいつでもお前からの連絡を待っている

 

              半、去る。

 

石尾       何言ってんの?

 

              照明変化

              石尾が現れて席に座る。

 

石尾       クスリでもやってんの?

相山       おれもおんなじ気持ちだから

石尾       自分のことを何か特別な人間とか、特別な才能を持っているとでも思ってる?

相山       それはマジで思ってないから、それは!まじで!

石尾       冗談だって。なんか彼女に振られてから大変そう

相山       思えば保険の営業をかけられたぐらいからおかしくなってる

石尾       そのスキルなんとかってのには入ることにしたの?

相山       おことわりだわ

石尾       私もこないだそういうことあった

相山       なんか怪しいの誘われた?

石尾       中学時代の友達から久しぶりに会おうよって連絡が来たから行ってみたら、最初こそは楽しかったけど途中からね、なんか見るからに怪しそうな本見せてきて

相山       ああ

石尾       今なんかある団体に所属してて広報してるんだって

相山       営業かけれられてんじゃん

石尾       そ。ちょっとショックだった

相山       仲良かったんだ

石尾       まあね。それに結構くるんだよね本だけでも受け取ってって

相山       ああ

石尾       だからもうどうしようもなくて私言ったの

相山       なんて

石尾       そんな活動はやめなよって

相山       おおすごい!めちゃくちゃ勇気出したじゃん

石尾       それに続けてこうも言ってあげた

相山       なんて言ったの?

石尾       パワーストーン買わない?って

相山       んん??

石尾       そしたらなんか速攻帰っちゃったんだよね、その子

相山       へー

石尾       どうしたんだろう急に

相山       今たぶんおれそのことおんなじ気持ちかも。え、冗談で言ったんだよね

石尾       その時勧めたのはこれなんだけどね(石を取り出す)

相山       まじか

石尾       こっちの方が良かったかな(違う石をとりだす)

相山       まじで言ってんのか

石尾       相山はどう思う?

相山       どう思う?

石尾       あれ、相山ってこいうのは持ってないんだっけ

相山       持ってないけど

石尾       じゃあ、いる?

相山       お前もなのか?

石尾       全然怪しいものとかじゃないからね。私も最初は信じてなかった、その効能を。でもやっぱ手にしたらもう違うんだよね。知る前にはもう戻れないっていうか。てかそうだ、相山にぴったりなのがある。相山、パワーストーンを超えたパワーストーンって知ってる?

相山       スーパーサイヤ人じゃん

石尾       つまりはそういうこと

相山       どういうこと?

石尾       見せる方が早いか。これが全てのパワーストーンを超越した石、その名もグレイトフルロック(やや大きめの石を取り出す)

相山       何一つ理解できてないから

石尾       グレイトフルロックよ

相山       オーストラリアにそんな名前の山なかったっけ

石尾       それはエアーズロック

相山       グレートなんとかなかったっけ

石尾       たぶんそれはグレートバリアリーフサンゴ礁のところ。そしてこれはグレイトフルロック。グレイトフルだから、すごすぎるから

相山       何がすごいんだよ

石尾       効能がほんとすごいの

相山       温泉かよ

石尾       そういうこと

相山       どういうことだよ!

石尾       例えばこの石は恋愛成就、こっちは仕事運を向上させる石なんだけど。このグレイトフルロックはすべての効能を持っているわけ

相山       今までで一番だわ

石尾       そう!

相山       うさん臭さが

石尾       うそ!

相山       新鮮な驚き

石尾       でもこれほんとすごいって言ってたんだよ?

相山       誰が?

石尾       先生が

相山       先生!?

石尾       ねえ相山、今仕事も恋愛もなにもうまくいってないんでしょ?

相山       余計なお世話だよ!ドラマのOLかよ

石尾       今ならこれ17万円だから

相山       高!金めっちゃとるじゃねえか!

石尾       え、17万だよ?安いよ。あ、もしかしてただで貰えると思ってた?そんなわけないじゃん!パワーストーン馬鹿にしすぎ。分かった、この本あげるからもうちょっと勉強してからまた会おう。あ、でもその時までにこのグレイトフルロックがあるかは分からないからね。じゃ!

 

              石尾、去る。

 

金田       なんか楽しそうだな

 

              照明変化

              金田が現れて席に座る。

 

相山       いやもう大変だよ、みんなこんな感じだったっけって

金田       結局どの誘いにも乗ってないんだよね?

相山       全部断った

金田       なんかもったいないな

相山       なにが?

金田       一応全部お前のためを持ってみんなすすめてくれてたじゃん

相山       うさん臭すぎるわ

金田       それに脚本のネタにもなりそう

相山       なんないよこんなの

金田       それぞれの営業風景だけでも作品になりそうだけどね

相山       だからなんないって

金田       なんかさっきから否定ばっかだな。どうした?

相山       どうもしてないよ

金田       正直、今のお前もうさん臭いからな

相山       は

金田       次なにやろうかわからないままで人を誘おうとしてるじゃん

相山       やることは決まってるよ

金田       どんな話?

相山       ある旅館の一部屋が舞台で、シチュエーションコメディをやろうと思ってる。それで中盤にその部屋の扉を挟んですれ違いが起こるんだけど、例えばAとBがいて、お互いがお互いを探してるわけよ。めちゃくちゃ。その状態で、まずAがその舞台となる部屋に来る。その部屋にはもともとCってやつがいて、AはBをめちゃくちゃ探してるから部屋にいるCに「Bはいるか?」って聞くんだけど、その部屋はCしかいないから当然Cは「Bはいない」って答える。それを聞いたAはすぐ部屋を出ちゃってく。そしたら今度はすぐその部屋に入れ替わりでBが来て、部屋にいるCに「Aはいないか?」って聞くの。で、Aはさっき部屋から飛び出してったから、当然Cは「Aはいない」って答えるの。そしたらBもすぐ部屋を飛び出してって、また入れ替わりでAが入ってくるの。で、AはCにまた聞くわけよ「Bいない?」って。この時Cとしては意味わかんないじゃん。だってたった今Bは部屋出て行ったんだから。なんならさっきから同じようなこと繰り返してるし。だから「お前ら廊下で絶対あってるだろ」って言うんだけど、Aはそれに対して「いやあ、会ってないけど」っていうから思わずCは「意味わかんないよ」って言うっていう話

金田       意味わかんないから!AとかBとかもうすごいうるさかった。あと急にC出すなよ!全然話が入ってこないわ。てかあらすじじゃないじゃん。現象の説明じゃん。とりあえずSF映画をやろうとしてるの?

相山       思いっきり日常劇

金田       ええ、その扉はワープゾーン的な感じじゃないの?

相山       いや、違う

金田       じゃあなに?何が起きてんの?その扉からAが出たらすぐB入って来るんでしょ?向こうではなにが起きてんの?

相山       なにが起きてんだろ

金田       おかしくない?

相山       そのおかしさを届けたいっていうか

金田       よくわかんないな。なんか保険もセミナーも秘密結社も石も、怪しさはあるけれどまだなんか中身があるじゃん、怪しさ満点だけどな。でも、お前のにはそれがない。ビジョンも正直見えない。もうちょっと考え直した方がいいんじゃないか?そもそもやるかどうかも含めてな。じゃあおれそろそろ行くわ

 

              金田、去る。

相山、一人佇む。

              相山、飲み物を飲む。

              しかし、もうすでに氷だけのため、ストローでズルズルと吸う音が響く。

              サイレンが鳴る。

              照明変化

 

相山       え、え

 

              外人風の警官らが来る。

 

相山       おれ?なんで!?

 

              警官が飲み物飲むとき音出すの禁止というジェスチャーをする。

              それを解読する相山

 

相山       飲み物を、飲むときに、音、出すの、ダメ?フランスって駄目なんだっけ?テーブルマナーに厳しすぎて?

警官       Non!!Vous!! Tomber dans l'enfer!!!(ダメだ!お前!地獄に落ちろ!)

相山       ごめんなさーい!!!

 

              相山逃げる。

              警官追う。