9.「ネタバレ防止」
とても満足そうな顔でD男は映画館を後にした。たまたま当選した試写会で見た映画が、ものすごく良かったからだ。思わず帰路でも笑みがこぼれる。早くも今年のベストが決まったと感じ、感想を早速ツイッターに投稿しようとしていた。
D男には、ツイッターに感想を上げる際のルールがある。第一に、その映画のジャンルファンに向けて投稿すること。第二に、作品を見る上で押さえておくべき知識を教えてあげること。第三に、類似している作品を挙げ、わかりやすくあらすじをイメージできるようにすることだ。
帰宅したD男は、帰り道ずっと考えていた文章をやっと固め、次のような投稿をした。
「この世の全てのアクション映画ファンに伝えたいんだけど、今週末〇〇って映画が公開される。その映画のアクション、とにかく凄いから。ここ10年あらゆるアクション映画の集大成って感じ。」
「ちなみにこの映画見る前に××って映画を見たほうがもっと楽しめる!」
「△△みたいな話をベースに□□と●●の要素足した感じだからこれらの映画好きって人にもおすすめ!」
「とにかくすべてのアクション映画ファンに伝われ!!」
「くたばりやがれ!!!」
こんな叫び声とともに、玄関から爆発音が聞こえてきた。異常な事態に戸惑うD男を、上下紺色の服の上に防弾チョッキを装着し、両手や腰に銃器を持った機動隊のような男たちが囲んだ。
誰だお前らと尋ねようとするD男を遮るように先頭にいた男が話始めた。
「お前はたった今、罪を犯した」
「罪?なんの?」
「映画の内容に触れるツイートをしたことだ」
「は?」
どうやらこの男たちはネタバレ防止委員会なる組織らしかった。試写会や公開直後の映画について、作品内容を具体的に想起させるようなツイートをした者。つまり、余計なお世話を働いた人を取り締まる組織らしい。D男はこれを受け、先ほどのツイートが内容を想起させるものだったか考えた。しかし、それよりも前に気になることがあった。
「来るの早すぎない!?」
「諸々の経費とかどうなってんだよ?」
D男の質問を無視し、委員会の一人が話始めた。
「昨今、SNSの急速な発展により、人々の感想も自由に飛び交うようになった。するとどうなるか。悪質な感想が出現するようになったのだ。映画をどう感じたか伝えるためならまだしも、◇◇出てきた!などと公開されたばかりの映画の内容をただただツイートすることで、他人の楽しみを容易に奪いかねない事象が多々発生している。我々は、これを許さない」
「それはわかるけど、さっきのツイートそこまで内容には触れてないだろ!」
「ならば一つ一つ指摘してやろう!まず最初の全てのアクション映画ファンに~というツイートだ」
「これは本当に内容触れてない!」
「確かに触れてない。だが、なんかむかつく」
「主観じゃねえか!」
「次に、この映画を見る前にこれを見ろと言ったツイートだ」
「話聞けよ」
「別に2回目見る前に見りゃいいだろ!」
「初めから楽しんでほしいんだよ!」
「うるさい馬鹿!」
「悪口!!」
「3つ目はあの映画とあの映画を合わせた~みたいなツイートだが、そういうのは批評家に任せとけ!」
「投げやりかよ!」
「最後のツイートはそういう気持ちはすごくわかるけど、はたから見るとすごく微妙な気持ちになる」
「どういうことだよ。てか、ほとんど主観だし、実際内容に触れるツイート少ないだろ!」
「お前には今回投稿したツイート全てを削除してもらう。」
「なんで?もし嫌だって言ったら?」
一斉に銃を構える委員会の男たち
「やべえ奴らかよ。分かった。今、削除するから」
D男はツイートを4つとも全て削除した。
そのことを確認した委員会は速やかにD男の家から掃けていった。
「なんだったんだ……」
感想ツイートを削除はしたものの、やはり感想を呟きたいので、D男は一つだけ投稿した。
「冒頭10分間がまず怒涛の展開だし、中盤に主人公が変身してからは凄まじかった」
D男の家は爆発した。