その耳をつんざくような爆発音は隣の校舎からだった。ざわめく教室内でA子が
「あの噂は本当だったんだ……」
と呟いた。噂について尋ねると
「この時期になるとB山先生が卒業制作を破壊すんだって」
「は?なんで?」
「岡本太郎に感化されすぎて。陶芸科から順々に爆破して私たち油絵科が最後」
「なんにも理解できない」
今度は爆発音と共に悲鳴が聞こえてきた。
「やばい、B山近づいてきてる」
「悲鳴やばくないか?」
「制作者もろとも手榴弾で爆破するらしいよ」
「法律どうした!」
先ほどよりも爆発音と悲鳴が大きくなった。
「あのさ、B山に対抗するとどうなる?」
「対抗してきた先輩は軒並みやられたって」
「じゃあ逃げるしかないのか」
「誰も逃げ切れなかったって」
「この学校卒業生いないっけ?」
「いないって」
「やべえ」
「ここが最後か」
B山が教室の入り口に現れた。手にはたくさんの手榴弾を抱えている。
「何か言い残すことは?」
「それって作品について?それともこの世について?」
不敵な笑みを浮かべるB山。
「なんの笑いだよ!」
「C太!早く逃げよう!」
A子の催促に慌てるように自身の作品を持つC太。2人は必死に教室の外へと向かった。しかし、廊下はすでにB山の手により天井は崩れ落ちて道を塞ぐ壁となり、床はところどころ穴が空いてとても歩けるような状態ではなかった。
「諦めるんだな」
ゆっくりとB山が近づいてきた。泣き出すA子。ふと、C太を見ると、何か考え込んでいる様子だ。そしてC太はB山の方を振り向いた。
「なんだ?抵抗する気か?威勢のいいやつだ返り討ちにしてやる」
高笑いするB山。そんなB山をよそに、C太は黙りこくったままB山を見つめていた。その様子に異変を感じながらも早く逃げようとC太を揺さぶるA子。しかしそれでもC太はB山をじっと見つめていた。
B山も笑うことをやめ、段々と不信感を募らせてきた。しまいに手榴弾に手をかけたその時、突然C太は自身の油絵を前に掲げ、そして粉々に破きだした。驚く2人。遂には原型もとどめないほど粉々になったころ、C太は言った。
「お前に爆破されるなら自分で破壊する」
この学校にいるものなら誰しも卒業制作の苦しみを分かっていた。入学当初から構想を考えさせられ、卒業までの3年かけて制作を行う。簡単に壊せるわけがない。そのことを知っているからこそ2人にとってC太の行動は衝撃的だった。特にB山はしばらく放心状態だった。だがやがて何かを取り戻したかのようにC太を見て
「そんなことするやつお前が初めてだ。認めよう、お前は立派な芸術家だと」
生徒2人は安堵の声を漏らした。
3人で和気あいあいと歓談が始まった。普段のB山は生徒から愛されるとても優しい先生なのだ。C太は記念と称され、B山から何かを渡された。見るとピンの抜かれた手榴弾2個だった。
「記念としてお前は2個だ。バイバイ」
「おい!!」