試行錯誤ブログ

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43.「お腹が冷える季節」

季節は秋から冬に差し掛かり、1日の中での寒暖差が激しくなった。朝夜は寒いのに日中は温かい。1日に8°も温度の変化があって会社に行く恰好にも迷う。駅に向かうまでは寒いのに電車内は暑いし、でも会社の席はエアコンの冷たい風が直で当たる場所で冷えやすい。気分転換でたまに外へ散歩すると日光が当たり暖かい。なんだこれは。

こんなときに勢いよく冷たい飲み物を飲んでしまうと途端におなかを下す。そうなるとその後にどんだけ温かい飲み物をちょびちょびと飲んだとしてももう遅い。お腹が温まることは無く冷えたままで、ひたすらお腹から何かを搾り取るような音が聞こえ、次第に耐えられなくなってトイレに駆け込むことになる。トイレでの格闘を終えて帰ってきてもすぐにまたお腹がグルグルとなり、またトイレに行きたくなる。でもあいつまたトイレ行くのかよという周りの目が気になってしまって少し耐えてみる。しかし、お腹が鳴りやむことはない。すると今度はその音が周りに聞こえてしまってるんじゃないかとビクビクし始める。たぶん聞こえているんだろう。だって、普段から他の人のお腹が鳴ってる音聞こえてるんだもの。でも普段聞くそれはそろそろお昼頃だもんなと可愛く思えるものだが、今、自分が鳴らしている音はギュルルルルと何か断末魔だったり、雷が落ちたようなものでそこに可愛さなど微塵もない。そんな音を聞かれてしまってるんじゃないかという恥ずかしさとやっぱり猛烈な便意に襲われて10分前にトイレに行ったにもかかわらず行くことになる。

何年も生きているが今だ対策は練られてない。温かい飲み物をちょびちょびと飲むぐらいだ。一度下してしまったらビオフェルミンを飲む。飲むことでお腹を下しているのに予防策も回復策も飲むことでしか叶わない。

しかも問題なのはこれは季節関わらず襲ってくることだ。冒頭秋から冬に差し掛かりとあり、この季節特有のものみたいな書きっぷりだが、夏は暑いから冷たい飲み物を飲むことでお腹を下し、冬は単純に寒くてお腹を冷やす。春は秋と一緒で寒暖差が激しく、ちょっと暑いかなと油断してつい冷たい飲み物をグビっと飲んでしまいお腹を下す。もう嫌だ。

ちょうどいい季節はないのか。お腹を下さずに済むちょうどいい季節。最近は夏か冬か夏冬の混合の3つの季節で回っている気がする。極端な暑さと極端な寒さと暑さ寒さの差が極端に激しい日。ちょうどいい季節が欲しい。

小学生時代はまだ過ごしやすかった気がする。今よりも夏は暑くなく、逆もまた然り。でも今は夏はめちゃくちゃ暑いしそしてその逆もまた然り。これも温暖化の影響なのか。よくわかんないけど。まあでもお腹を下しやすいこの身体と根気よく付き合っていくしかない。日本に住む限り季節は移ろいでいくし、外国へ行こうとも今は行きづらいし。注意してちょびちょびと飲むことにする。グビグビ飲んでいいのはビールだけ。ああ、友達と飲みに行きたい。

42.「隣山田」

二宮        「北千住は千住の北にあるから北千住。西日暮里は日暮里の西にあるから西日暮里。てことでお前は山田の隣の席だから隣山田な」

木島        「なんでだよ!嫌だよ!」

二宮        「お前が新しいあだ名欲しいって言ったんじゃねえか」

木島        「だとしても他にもっとあるだろ!なんだ山田の隣だから隣山田って!大体席替えしたらどうすんだよ!」

二宮        「山田の隣になることを祈るんだな」

木島        「山田固定かよ!」

二宮        「コロコロ変わるのは面倒だろ?」

木島        「そうだけどそうじゃなくて!そもそも隣ってなんだよ!北千住理論だと北とかだろ!」

二宮        「方角なんてわかるわけねえだろ」

木島        「じゃあ右とかでいいだろ右山田とかで」

二宮        「じゃあ右山田で」

木島        「嫌に決まってんだろ!なんだ右山田って!」

二宮        「お前が言ったんだろ!」

木島        「そもそもナントカ山田が嫌なんだよ!おれは木島なんだからそっから考えろよ!」

二宮        「おい!山田が可哀そうだろ!あいつもうすぐ転校すんだぞ!」

木島        「だからなんだよ知らねえよ!」

二宮        「山田のことを忘れたくねえんだよ」

木島        「俺を利用すんなよ!」

二宮        「分かってくれよ!」

木島        「全然わかんない。俺が可哀そう」

二宮        「だったらお前が山田になってくれ」

木島        「は?どういうこと」

二宮        「山田襲名しろよ」

木島        「なんで襲名すんだよ。あだ名欲しいって言ったら苗字変えさせられるってなんだよ!」

二宮        「2代目山田」

木島        「おい、聞いてんのか」

二宮        「3代目は俺な」

木島        「襲名したいのかよ、だったらお前が2代目でいいよ」

二宮        「いいの!?」

木島        「なんで喜んでんだよ」

二宮        「2代目だからにっちゃんと呼んでくれ」

木島        「お前のあだ名が決まっちゃってんじゃん。苗字二宮だからいい感じになってんじゃん」

二宮        「それでお前はどうすんだ?」

木島        「どうにもなってないだろ」

二宮        「隣山田にすんのか、それとも元々の木島りおんぐファイナルステージか」

木島        「なんだその選択肢は」

二宮        「どっちがいいんだよ」

木島        「・・・元々のがいい」

二宮        「ほんとに言ってんのかよ」

 

41.「星間旅行」

星間旅行が可能となってから、人々の間でモールス信号が流行し始めた。

光によるモールス信号が遠くの星と交信可能な唯一の人類共通言語であり、その星に到着したであろう未来の自分に向かって発信するメッセージ、あるいは、目標の惑星に到着したときに過去の自分から届くメッセージという一種のタイムカプセルのような神秘性に人々はロマンを感じたからである。

 

宇宙船自体、日本に離着陸可能な基地は種子島の1か所のみで世界的に見てもまだまだ少なく、またモールス信号も実験的に行ったのが成功しただけだったのだが、その事実が星間旅行の魅力を無尽蔵に膨らませ、いつか自分もとモールス信号を覚えようとする人が増え、次第には人々にとってモールス信号は当たり前の存在となっていった。そして人々は宇宙に発信するモールス信号のことを、宇宙を超えて届くタイムカプセルということからスペースカプセルと愛着を持って呼ぶようになった。

 

ここにまた一人、星間旅行を計画する男がいた。

その男は妻と共に4光年先の惑星へ向かう宇宙旅行を計画しており、この時代ではいたって普通の宇宙旅行ではあるが、それでも世間からの注目が集まっていた。

それはスペースカプセルの内容を公募すると言ったからだ。

タイムカプセルといえば元来、未来の自分へのメッセージを送るもので、スペースカプセルも大概未来の自分へのメッセージとして利用していた。

だがこの男はそれを公募すると発表した。その発言はニュースに取り上げられ、瞬く間に世間へ拡がり人々を大いに賑わせた。

 

応募条件は1つ。

特設サイトから志望動機を送るだけだった。

メッセージの内容は問わず、年齢制限などもない。ただ熱意を送ってくれとのこと。期限は1週間以内。文字数制限もなし。

 

テレビやネットではすぐさま志望動機の戦略が練られた。文字数は多い方がいいのか短い方がいいのか。自分の生い立ちから話すべきという人もいれば、そもそもこんな公募なんて無いという人も多い。また、やはりこのチャンスをつかもうとする人が多いことからサイトのアクセス数が多く、サーバーダウンすることもしばしばあった。このことから金持ちが作ったサイトならばサーバも強固であり、よって偽物であるという論説も生まれ、世間は混乱に陥ったまま、期限がきた。

 

結果としてこのサイトは本物でありながら、中々サイトに繋がらないということから応募総数は1万弱となった。

男はまた1週間後に合格者を発表すると言った。

ここでまた世間では応募できなかった落胆の声と共に1つの論争が巻き起こった。一体合格者は何名なのか。1名なのか、応募者全員なのか。

そこから発展してそもそも公募すると言った目的はなんなのか。その目的は合格者発表と共に語られた。

 

合格者は3名だった。

1人目は公立の小学校に通う4年生の少年。2人目は20代前半のこれから結婚を控えている女性。3人目は会社勤めの50代の男性。世代も職種も性別もバラバラだった。

「いろんな世代の人と人類史上最も遠い環境の中での交流をしたいんですよ」

それが彼が言った今回公募した理由だった。応募者を世代に分けた後、何回かくじ引きを行って決めたそうだ。

 

 

今回、星間旅行で行く星は地球から4光年先の惑星である。

現状、開発された宇宙船の速度は高速の2分の1の速度で進むため、目的の惑星につくのは8年後である。また、目的の惑星についたとしても着陸はせずに惑星の周りを周回するだけで、集会後すぐに地球へと帰還する。滞在時間は大体1時間。星間旅行という名前ではあるが、そんなもんである。

 

いよいよ星間旅行へ旅立つ日がきた。

彼ら夫婦は大勢の人に見送られた。搭乗するする際、星間旅行を計画した夫は満面の笑みで見送る客に応えていた。妻も夫と同じく満面の笑みで手を振っていた。しかし、いざ乗り込むとき、その一瞬だけ妻の顔が若干曇ったように見えた。

出ロケットは何事もなく無事に発射された。

 

4年後、今度はスペースカプセルを送る時期がきた。

3人のメッセンジャー(合格者は人々からこう呼ばれた)は、1度だけ夫婦と話す機会があり、内容については自由だと告げられた。だが、惑星への滞在時間の短さから送るメッセージは1人当たり5文字までと制限された。幸い濁点・半濁点は文字数制限には含まれない。

人々の注目はやはりどんなメッセージを送るかに集まった。少年と男性が内容を公表した。少年が送るメッセージは「どうですか」。一方、男性は「おげんきで」。

賛否両論であった。なんだそれはと言うものがいたり、そんなもんだろと言うものがいたり。その声の傍ら、女性に対してメッセージ内容を公表しろという声も高まっていた。

地球からメッセージを送る場合、人工衛星に搭載された鏡で太陽光を反射させて行う。モールス信号は波長の長短で文字を表すため、鏡の表面には開閉式のシャッターが付けられ、その開閉によって目的の惑星に対して太陽の光を反射の長さを調整してモールス信号を送る。信号は惑星に向かって送られるため、地上からその内容はわからない。

惑星に到着した宇宙船から地球にモールス信号を送るシステムも同様だった。そのため、宇宙船からのモールス信号は地上からでも見えることから、女性のメッセンジャーが送る内容さえ分かれば地上に住む人も今回のどんなやり取りが行われたかが分かるのだった。しかし、メッセージの内容の公表はメッセンジャーの自由とされていたため、彼女は最後まで公表しなかった。

 

それから8年後、惑星からメッセージがきた。

メッセージは10代少年、20代女性、50代男性の順で送ったため、返信もその順でくる。4光年先の惑星から送られてきたメッセージは次の通りだった。

「すばらしい」「だれなんだ」「わからない」

メッセンジャー並びに人々は困惑した。「すばらしい」は少年の返答としてまず間違いない。「わからない」も男性の返答として間違いはないだろう。しかし、まずここに1つ目の疑問がある。「おげんきで」という質問に対して「わからない」という返答は、つまり何か問題があったのではないか。宇宙船に何かトラブルがあって、帰還困難に陥ってしまったのかもしれない。もしくは宇宙人と遭遇して攻撃にでもあったのか。

けれども少年の「どうですか」という質問には「すばらしい」と返答があった。トラブルに陥った人間がそんな回答をするだろうか。1つ目と3つ目のメッセージを送る間には5分も時間はない。そんな短時間でトラブルに陥ることはあるだろうか。

 

あるかもしれない。

星間旅行もまだまだ未熟な技術で予期せぬトラブルはあるだろう。

しかし、2つ目の疑問がそのトラブルの内容の予測をより困難にさせた。一体「だれなんだ」というメッセージは誰に向けたものなのか。メッセンジャーは当然、彼らが選抜している。それに何度も会合したはずだ。そのメッセンジャーからのメッセージに対して「だれなんだ」とはどういうことか。もしや宇宙船内に知らない人がいたのだろうか。

 

星間旅行の間、宇宙船はすべて自動操縦で動く。そのため乗船するのは旅行者のみで、今回でいうとたった2人である。惑星に向かう行きと帰り合わせて8年間はコールドスリープで過ごす。コールドスリープの機材は人数分しかない。たった二人きりの世界。

もし宇宙船内に侵入者がいればなす術はない。コールドスリープ中に何かをすることはたやすいだろうし、そもそも旅行者にとっては自分たち以外乗船していないはずなので油断しきっており、侵入さえすればほぼ侵入者の目的がなんにせよ達成するだろう。しかし、物事にはタイミングというものがある。なぜ2通目のスペースカプセルを送る直前で異変が起きたのか。何か異変を起こすなら1通目からだろう。こういった謎がますます謎を迷宮入りにさせた。

 

再び4年後。

いよいよ星間旅行を終えて地球にあの夫婦が帰還するときがきた。人々は4年前のメッセージの真相が解き明かされると待望のまなざしで宇宙船の着陸を待っている。メッセンジャーの3人もとい人類は、星間旅行に旅立ったあの日から16歳年齢を重ねているが、そのまなざしはあの頃の輝きのままであった。

ついに宇宙船から人が出てきた。最初に出てきたのは妻の方だった。コールドスリープで過ごしていたから容姿に一切変わりはなかった。だが、出発時よりも明るく見える。迎える観衆に大きく手を振るその表情は満面の笑みだ。次いで夫が出てきた。その表情や雰囲気は妻に比べて暗くげっそりしているように見える。夫の大衆を見つめる目は、まるで何かに怯えているようだ。二人は搭乗口から降りた後すぐさま車に乗ってしまい、そして公の前に姿を現したのはこれで最後だった。

 

後年、メッセンジャーの3人は夫婦と面会したらしいとの情報が出回った。

少年には(もうすでに20代後半ではあるが)、星間旅行がいかに素晴らしかったかを語ったらしい。50代だった男性にはやはり星間旅行には怖さもあり、その恐怖から「おげんきで」に対して「わからない」との返答をしたとのこと。そして女性との面会の内容は、またしても謎に包まれていた。ただ星間旅行を計画した男は面会後、陰鬱そうであり、その日から持病が悪化して1年以内には亡くなったそうだ。一方、女性2人はその後も度々交流しており、その関係は晩年まで続いたそうだ。

一体、女性がどんなメッセージを送ったのか、男はなぜ星間旅行後に衰弱してしまったのか、その謎は男が死んだことで人々も徐々に興味が薄れていった。

 

しかし、1人だけ気になっている男がいた。

この記事を書く私だ。スペースカプセルの歴史を振り返る企画で記事を書くことになり、いろいろと調査を進めていく中でスペースカプセル誕生して間もないころに起きたこの事件の真相を知りたくなった。

 

私はすでに齢70となった当時メッセンジャーの彼女に連絡を取った。

場合によっては公言禁止されることも辞さない構えでいると、彼女からは別に公言してもいいときた。50年近くも真相が明かされなかったというのになぜ急にと思い理由を聞く。こういった場合はありがたく聞くべきで、わざわざ理由を聞くのは場合によっては取材の許可が下りないこともあるが、彼女からは「すべて解決したから」と返信がきた。

 

対面で話す機会が訪れた。

彼女曰く、すべては星間旅行を計画したところから始まったらしい。

 

星間旅行を計画した男は、大学在学中に製作したオンラインゲームが世間からの評判を集め、在学中ながらも起業した。会社ではゲーム制作を主に行いながら徐々に事業を拡大し、30代半ばでは海外進出も果たした。その後紆余曲折ありながらも概ね順風満帆に過ごした。そして50代となり、男は遂に人生に満足しきってしまった。

やりたいことをやり尽くし、行きたいとこにも行き尽くし、人生の目標も潰えてしまった。男は考えた。いっそ華々しく死んでしまおうかと。

その時目を付けたのは当時開発されたばかりのスペースカプセルだった。

カプセルの中身を公募することで世界中から注目が集まったまま、目的地の惑星で死ぬことでその時点で地球から一番離れたところで死んだ人物として記憶にも記録にも残るだろうと。

そのことを妻に告げるとやはり賛同してくれた。

結婚して30年以上。時には口論するがいつだって賛同してくれる。だからこそ妻と最期も一緒になりたかった。

 

そんなことを夫は考えていたのだろうと奥様は言ったそうだ。

奥様は無論死にたくなかった。内心ではそう思ってたらしい。だが夫はいつだって意見を聞いてくれず、だからもう意見することは諦め、違う計画を立て始めた。星間旅行自体はとても楽しみだったが、いかにして生きて帰るか。これが第一目標となった。

 

メッセンジャーの選出は基本的に男が行った。一度だけ女性の選出について、何人か候補を出されて誰がいいかと聞かれ、その時に選出されたのがメッセンジャーの彼女だった。

 

「なぜあなたが選ばれたか理由は聞きましたか?」

「私が結婚を控えていたからって」

 

一度だけあった面会後、奥様に個人的に呼ばれたそうだ。

「あなたにはいつだって何かを選択する自由がある。そのうえで協力してほしい。夫は星間旅行で死のうとしてるんだけど、私は死にたくないの」

と、奥様に言われたらしい。

奥様はずっと夫に従って生きてきたが、ここにきて自分の自由に生きたいと思ったらしく、結婚してもあなたはいつだって自由に生きられると伝えたかったからだという。

メッセンジャーの彼女は喜んで協力することを告げたそうだ。

そこからたった2人での生存戦略が始まった。

目的地の惑星に到着してからいかにして生き延びるか。どうやら男は薬を飲んで死のうとするらしく、だったらその薬を飲むことを拒否すればいいという案が出たが、死体と4年も一緒にいることは嫌だったため、男が死ぬことも止めることが目的となった。

あらゆるアイデアを出したのち、ついに思いついたのがとあるメッセージをスペースカプセルで送ることだった。

その内容とは「つまふりん」

お前の妻が不倫をしているという内容だった。

男はそのメッセージを受け取った瞬間、目を丸めて妻を見たそうだ。その時の妻は満面の笑みだった。男にとって、妻の不倫は本当なのか、おれは不倫されてしまう奴なのか、50歳も超えて不倫するのか、誰と不倫しているのか、そもそもこのメッセンジャーはなぜ妻の不倫を知っているのか。もうすぐ死のうとしており、非常に穏やかだった気持ちでいたのが急にざわついてきた。あらゆる考えがまるで走馬灯のように脳内を駆け巡った。どんな走馬灯を見るのか楽しみにしていたが、こんな走馬灯は望んでない。

 

スペースカプセルは入力作業を行えば、あとは機会が自動的にモールス信号に変換してメッセージを送ってくれる。男は思わず「だれなんだ」と入力してしまった。不倫相手は誰なのか、そもそもお前は誰なんだという考えが膨らみすぎて。

 

3人目のメッセンジャーの「おげんきで」という内容に「わからない」と男が回答したのにも、本来死ぬつもりではあったが、どうしても1つ解決しておきたい謎があり、この先どうなるか本当に分からなかったためこの内容となった。

 

惑星からスペースカプセルを送ったあと、男は妻に聞いた「どういうことなんだ」と。

しかし、妻は依然として「地球に帰ったらすべて答えてあげる」としか言わなかった。

男は食い下がるも、妻がコールドスリープに入ってしまったのでもうどうすることも出来ず、しぶしぶと自身もコールドスリープに入った。

 

地球に帰還し、コールドスリープから目覚めた後も男はすぐに、最終的な目標が達成できなかったことと、妻の不倫が本当なのか、その2つに悩まされた。

そしてすぐさまメッセンジャーの彼女を呼び寄せた。

そして男にとって衝撃的なことがそこで告げられた。

不倫なんてものは嘘だった。

妻は別に死にたくなく、また男にも死んでほしくなかったためについた嘘だった。

地球からこんなにも遠い所へ行けるのに、すぐ隣にいる人の考えすらなにもわからないのか。

男はきっとそれに悩んで死ぬことはなくなるだろうとの算段だった。

結果、それは見事に成功した。

全てを得てきたはずだったが、最後に妻からの愛を失った男はそのまま衰弱し、近いうちに亡くなった。

 

これが真相らしい。

メッセンジャーの彼女には記事にするにはそれなりに時間がかかることを告げて別れた。

今ここに書いてあるのもメモを乱雑にまとめただけだ。後日、またまとめよう。

私はゆっくり寝ることにした。

 

 

40.「小突き」

1.

突然、背中を小突かれた。

会社から帰宅途中の電車に揺られている中での出来事だった。

電車内は、席は埋まってはいるが、立っている人はまばらで、おれは吊革に捕まってスマホでゲームをしていた。初夏の夕暮れ時、仕事の疲れと共に暖かな空気に眠気を誘われて、半ばウトウトしていた。そんなすっかり安心しきっていた時に、不意に背中を小突かれると人はどうなるのか。

ただただ怖い。全身に鳥肌が立つのを感じた。

小突かれた理由はわからない。

座席の前に陣取っていたために、通る邪魔をしていたかなと思ったけど、リュックサックはちゃんと前に抱えていたし、割と席側に寄っていたから邪魔はしてないはずだった。

なので、咄嗟に思ったのは知り合いに小突かれたのかなということだ。というか知り合いであってほしかった。電車の中で変なやつなんかに絡まれたくない。そんなことを願いながら振り返ると、そこにはおじさんがいた。知らない人だ。しかも笑ってる。ニコニコとしながらこちらを見ている。なおさら怖い。電車内で知らない人に小突かれるのはこんなに怖かったのか。今まで会ってきた人のことを走馬灯のように思い浮かべたが、目の前の人物に会った記憶はなかった。少し肌寒くなってきた。

 

2.

セールとはすなわち、戦争です。

始まりの合図とともに、売り場へと駆ける我が同胞でありライバルたち。皆の目を見ると、いかにして真っ先に売り場へ行くかしか考えていないみたい。いつもは譲り合いの精神を持ちつつも、その時だけは我が我がと他人を押しつぶしてまで目的地へと突っ走る。でも、目的地に1番に着いたところで意味はない。だってそこからが本当の勝負の始まり。どの商品が一番新鮮で美味しいのか見極めなければ。そしてその見極めをいき迅速に行えるか。例え1番に着いたとしても、うかうかしているとすぐに良い商品はライバルに持ってかれる。逆に、遅くても良い商品を見抜きさえすればいくらでもチャンスは転がっている。

セールで勝つとは、商品売り場への最短ルートを割り出す判断力に行動力、より良い商品を見極める審美眼が重要なんです。そしてなにより、転がってきたチャンスを逃さないこと。

今日は高校時代の友達と久しぶりにランチを共にしました。久しぶりゆえに少々はしゃいでしまい、疲れがたまってます。これではこの後に行こうとしているスーパーのセールに勝つことはできません。だからなるべく体力回復するために、帰りの電車では座りたかったです。でも空いてない。

そんなことを思っていた矢先、近くの席が空きました。最寄りの駅に着いたためにおじさんが立ったみたい。でも、そのおじさんの様子がどこかおかしくて、近くに立っていた若いサラリーマンの元へと向かってます。そしてその若者の背中を小突きました。暴力現場です。でも、おじさんは笑顔。知り合いなのかと思ったら、若者はてんぱっている。電車内は騒然。一方、おじさんはしきりに先ほど自分が座っていた席をアピールしてる。どうやら席に座ってよということみたい。対して若いサラリーマンは、ひたすら首を縦に振っている。なにしてんだあれ。なんでそんなに頷いてんだ。感謝を伝えてんのかな。でも座る気はないみたい。もったいない。こちとらめちゃくちゃ座りたいのに。扉の閉まる音がしたので、おじさんは去りました。若いサラリーマンは未だに今あったことに驚いており、どうやら座る気はないみたい。この空いてる席がもったいない。だから私は座ることにしました。だって座れるチャンスだったんだもの。

 

3.

「ねえねえ、あのおじさんが急にあのサラリーマンのこと小突いたんだけど」

「え?小突く?どういうこと?暴力?」

「いや、指先で背中をつついたって感じ。でも強めだったから小突くって方がニュアンス的にはあってたかも」

「ああ、でもなんで小突いたの?」

「わかんない」

「あ、なんか席譲ってない?譲ってるぽいよね?」

「ほんとだ!譲ってるっぽい。」

「なんで譲ってんの?」

「わかんない」

「譲られてる人も頷きまくってるけど全然座んないね」

「ね」

「なんで?」

「わかんない」

「あれ、おばさんが座っちゃったよ! なんで?」

「わかんないよ。ていうかさあ、さっきから私に聞きすぎじゃない?私が答えを知ってると思ってんの?」

「え、なんで怒ってるの?」

「怒ってはないよ!」

「でも怒ってるじゃん」

「なんでって聞かれるのが嫌なだけ」

「なんで?」

「ほらまた言った」

「これはほんとに気になって」

「じゃあ今までのはなんだったの」

「なんでしょう?」

「クイズ出さないでよ!」

「そもそもなんでこんな感じになってるんだっけ?」

「え? えーっと、あ、あそこでなんか小突かれてる人がいたんだよ。もういないけど」

「ふ~ん」

「もういいやこの話」

 

4.

「小突き」

この言葉を聞いた途端、血が疼いてきた。日常生活においてこんな言葉使うわけがない。ということはやつがこの車両にいるのかもしれない。

名高い万引き犯「京成小突き野郎」が!

やつを直接見たことはないが、電車内でスリにあわれた方々の証言を聞くに、いずれも「そういえば今日背中を小突かれた」と同様の経験に会っていた。また、京成線での被害が多いことから、警察内部ではいつしか「京成小突き野郎」という名称がついた。

やつの手口として判明しているのは、後ろのポケットやバックからはみ出ている財布を取ると同時に背中を小突くこと。そういえば一度、小突いている現場を生で見たことある。その時も「小突き」という言葉がぴったりなぐらいに小突いていた。その現場を目撃した瞬間にやつを追っかけたが、その時は逃してしまった。

今回は女子高生がたまたま会話していたのを聞いただけだが、女子高生が小突きとしか表現できないということは、ほぼ奴で間違いないだろう。

それにしてもまさかこんな夕方の人が少ない時間帯で行うとは。

我々も随分とまた舐められたものである。しかし、お前も今日ここまでだ。

 ここまで来るのに長い時間がかかった。とても感慨深い。もう小突きというワードを聞くだけでこんなにも連想してしまうほど思い入れもある。しかし、それも今日まで。

ほんとに今日限り。

そんな気持ちで小突き現場を見ると、そこにはおじさんと若者がいた。様子から察するにおじさんが若者を小突いたようだ。あんな気の良さそうなおじさんがまさか京成小突き野郎だったとは。観念しやがれクソ野郎!

ホームを歩く小突き野郎を追いかけ、私は背中を小突いた。

 

5.

人に親切にすることは大変気持ちのいいことである。

行動を起こす瞬間は若干恥ずかしいが、それも一瞬で過ぎ去るもので、 後にはすがすがしい気持ちしか残らない。相手も笑顔。こちらも当然笑顔。

平和だ。平和はよい。私は平和にしたい。

今日も職場で若い子が困っていた。会話を盗み聞くと、どうやらコピー機の使い方が分からない模様。遠くの席に座る中堅社員に操作方法を聞きに行こうとしている。あんな遠くに行くよりも、近くの私が教えてあげた方がより早く解決するだろう。そう思って、私は会話に割って入り、操作方法を教えてあげた。いいことをしてあげた。若い子らも笑顔で感謝を伝えてきたので、非常に満足。

この行動のおかげか、今日の帰りは電車に座れた。素晴らしい、日ごろの行いのおかげとはこのことだろう。だが、今日はさらに良いことをするチャンスがまた訪れた。

最寄りの駅近くになった頃、揺れている若者がいた。

まだ新卒なのか、仕事の疲れが溜まったのだろう、非常に眠そうである。しかし、立ちながら寝るのは非常に危ない。ならばこの席を譲ってあげよう。なんて優しい行動なのか、我ながら素晴らしい。

若者に声をかけようとすると、その若者はイヤホンをしていた。こういう場合の声のかけ方を私は熟知している。背中を小突くのだ。私は彼の背中を小突いた。

彼はびっくりして振り向いた。驚かせてしまって申し訳ない。だが、敵意はないのだよ。私は笑顔になることでそれを伝えた。彼はイヤホンを外す気がなさそうなので、席が空いてることを指し示した。言葉がなくても伝えられるのだ。彼もその意図を理解したのだろう、頷いて感謝を伝えてきた。しかし、一向に座ろうとはしない。あれ、伝わってないのか。私は何度も笑顔で空いた席を指し示した。電車の発射音が鳴る。もう行かなきゃ。まだ彼は席に座ろうとしない。まあいいか。もういこう。

ホームを歩く中、私は今日の行動に浸っていた。今日は2回も人に親切をしてしまった。きっと、これからの帰り道でもいいことがあるだろう。そんなことを考えていたら、背中を小突かれた。私は驚いてしまい、ついちょっと弾んでしまった。振り向くと知らない中年男が。誰だろうと考えると、そいつは手帳を取り出し、「警察だ。観念しろ小突き野郎が」と言われた。頭の毛はもとより、頭の中も真っ白となった。

 

6.

知らないおっさんが電車を降りた後、財布を盗まれたのではないかとお尻のポケットを触った。しかし、そこには何もなかった。焦り、前に抱えたカバンのチャックを開けるとそこには大量の財布が入っていた。中を漁り、1つの財布を取り出す。ほっとする。ふと外を見ると、先ほど小突いてきたおじさんにこれまた知らないおじさんが絡んでいる。見せている手帳を見ると、どうやら警察のようだ。何かしゃべっている。「京成小突き野郎」と呟いているみたいだ。

まさか、この時間帯も警戒しているのか。

最近は危うい時もあるし、被害者の気持ちもさっき理解できた。

今日まで捕まらなかったのも偶然で、一度にこんなにも関連した事柄が起きるとは、きっとこれはもうやめろという警告かも。正直財布の処理も困ってきたし。これからは真っ当に生きよう。

そう決意して、おれはカバンのチャックを閉めた。

 

 

39.「報告」

ふと前を見ると、白くて四角い箱がずらっと並んでいる。

正確には、白くて四角い箱は横に6個並んであり、その列がフロアの奥まで規則正しく並んでいる。 さらにその白くて四角い箱の間には、黒いもじゃもじゃが時々ひょこっと顔を見せている。そしてそのもじゃもじゃには黒だけでなくたまに茶色もある。さらに言うと半分くらいはさらっとしている。つまり、もじゃもじゃはジャングルの如く生い茂っている様子を表した言葉ではなく、ただ白くて四角い箱とは違うんだということを言いたいだけなのだ。なんなら肌色できらっとしているとこもある。この世は多種多様である。

そんなことを考えていたら、始業のベルが鳴った。

ぼーっと前を眺めるのをやめて、目の前の黒い画面に集中しようと思った矢先、右斜め前にある黒いもじゃもじゃの1つが立ち上がった。

目の前を横切っていく黒いもじゃもじゃ。どこに行くんだろうと追っていくと、次第にこちらに近づいてきた。

「おはようございます」

後輩である。挨拶されたのだから当然こちらも「おはよう」と返そうとしたが、それよりも先に、

「え、どうしたの?」

と口走ってしまった。

後輩とは同じチームで仕事をしている。役割としては、後輩が実作業を行い、自分がその作業の検証を行っている。例えば、リーダーから売上データの集計を頼まれたときは後輩がその集計作業を行い、その確認を自分が行ってから提出するといった感じだ。そのため、後輩からはよく作業が完了した報告が来る。また、作業完了報告以外にも、作業の疑問やトラブルなどの報告もくる。つまり、よく報告に来るのだ。

しかし、朝一で報告を受けたことはなかった。確かに今集積作業を実際に行ってはいるが、期限まではまだ1週間もあるし、こんなにも早く報告にくるだろうか。それに今回の作業は関東にある店舗全体の集計作業のため、結構大変なはずだ。なおさらこんなにも早い報告はおかしい気がする。思えば、昨日は自分の方が先に帰った。もしかしたらあの後トラブルでも起きたのだろうか。後輩の顔を見てみる。少し顔がひきつっている。もしかしてほんとに困ったことが起きたのか?正直今トラブルが起きるのは面倒だ。だってコロナなんだもの。

「何か昨日あったの?」

「いや、今朝方の話なんですが」

今朝?どこからかトラブルの連絡を受けたのだろうか。

「通勤中、僕ずっとチャック空いてたみたいです。さっき気付いたんですよ」

「え?」

後輩は笑い出して、

「いやー気付いたときは恥ずかしかったです。でも、コロナであんま人がいなかったので被害は少なかったですね」

「……あそう」

今言われたことを自分の中でを整理してみた。そして思った。

なんだその報告は!

 

38.「2018年に読んだ本の感想」

2018年に読んだ本の感想

※敬称略

 

磯崎憲一郎鳥獣戯画

 いつの時代も大変

 

フィリップ・K・ディックアンドロイドは電気羊の夢を見るか

映画面白い、続編も

 

③今村昌弘「屍人荘の殺人」

 密室謎解きとしては面白かった。たが、密室になる理由の根本原因が明かされなかったのが不満点。そこがむしろ一番最初に謎として印象が強かったから尚更。まあそれ自体は密室ミステリーとは何も関係ないからしょうがないっちゃしょうがない。また、このキャラがこういう目にあうのかという点も楽しめた。映画も見よう。

 

④陳 浩基「13.67」

めちゃくちゃ面白い、ミステリーやらサスペンスの短編集。1人の警察官の人生を軸に、遡りながら、節目節目で担当した事件が描かれていく。だから当然死ぬわけないが、中盤の銃の打ち合いシーンはもしかして死ぬんじゃないかというドキドキ感も味わった。どの作品 も趣向が違いつつ、また香港の歴史もかいつまみながらなので、警察体系が変動する中で葛藤しながら事件の真相に迫る姿がよかった。

 

西加奈子「ふくわらい」

この世界とはなにか

 

綿矢りさ勝手にふるえてろ

映画面白かった 

 

⑦今村夏子「こちらあみこ」

一途。 

 

⑧今村夏子「ピクニック」

フーターズ 

 

⑨今村夏子「チズさん」

孫。 

 

綿矢りさ「仲良くしようか」

仲良くする。 

 

ジェイムズ・P・ホーガン「星を継ぐもの」

みんなが知ってるこれは実は・・・系。面白かった。SFは設定の理解が難しいものの、合理的な説明を着実に積み上げてからのぶっ飛んだ展開ってのは面白い。ほんとにこうなんじゃないかと思ってくる。 

 

吉本ばなな「白河夜船」

眠い。 池袋の梟書茶房で買った。

 

角田光代対岸の彼女

 団地に住む婦人同士のバチバチ争いかと思ったら、少しずつ互いを理解し交流していく話だった。バチバチ争いによる阿鼻叫喚が見れるのかと思ったら違ったけども交流を丁寧な描写で描いていてこれはこれで面白かった。

 

⑭コルソン・ホワイトヘッド「地下鉄道」

アメリカの黒人奴隷が秘密裡に運用されている地下鉄道に乗って逃亡する話。道中様々な街に潜伏し、時には長く住むことも。街ごとに特色が異なり、ある意味ワンピースに近いかも。悲しい伏線回収もあった。 

 

カズオ・イシグロ「私を離さないで」

ある学園での話。自分たちは何のために育てらているのか、その目的に徐々に気付き、静かに運命を受け入れる者や必死に抵抗の術を探るものが出てくる。残酷な運命に抗うための優れた方法は、苦しい状況下でもそれを凌駕する楽しみを見つけ、見せつけることなのかも。 

 

宮部みゆき「過ぎ去りし王国の城」

偶然見つけた絵画の世界に入り込んでしまうファンタジー。 

 

⑰草野原々「最後にして最初のアイドル」

全く想像だにしてなかったゴリゴリのSF展開。初めはアイドルを目指す者たちのライバル関係等が描かれ、主人公は悔しい気持ちを抱いたり等さもふつうのアイドル成長物語ですよって感じだった。が、急にSFへと展開していった。「会いに行けるアイドルではなく、会いに行くアイドルになったのだ」みたいな表現があって、これだと前半はファン目線、後半はアイドル目線と主体が変わっており、後半もファン目線でのキャッチコピーの方がいいんじゃないか?とすごく疑問に思ったとこがあったが、これとは関係なく話は面白かった。想像と全く違かったという変な読書体験をした。

 

松尾スズキ「もう「はい」としか言えない」

男がひたすら悲惨な目にあっていく。 

 

⑲宇佐美まこと「骨を弔う」

結末の手法がサラバと同様だった。が、グッとは来なかった。小学校の時に土に埋めた人体の標本の骨。しかし、それが本当の人体の骨だとしたら・・・。今はもう離れ離れになったあの時の5人組が徐々に集まり、当時を回想していくという流れは面白いものの、あんま覚えてない。

 

高山羽根子「オブジェクタム」

祖父が新聞作ってる。 ストーリー性ではなく表現で訴えてくる作品なのかも。

 

西加奈子「サラバ」

前回読んだ時から2年経って、今もう一度読んだらどんな気持ちを抱くのか確かめたく読んだ。 2年前に読んだ時のように衝撃を受けるようなことはなかったが、違う感想は抱いた。主人公にとって「サラバ」という言葉は友人との合言葉であり、人生の楽しかった一瞬を凝縮した言葉であり、唱えるだけで安心する魔法の言葉である。自分にとってこの「サラバ」に相対する言葉はあるのか?それを投げかけるような小説だった。

 

 

 

 

37.「2017年に読んだ本の感想」

2017年に読んだ本の感想

※敬称略

 

テッド・チャンあなたの人生の物語

2017年夏に公開された映画「メッセージ」の原作。とても面白いと評判だったから読んだ。突如現れた、ただ浮遊するだけのUFOに接触を試みる話と、主人公の家族との日々の生活が交互に描かれてる。テーマにもなっている光の屈折に関する理論の説明が何度読んでも理解できずに苦しんだ。終盤、話の構造に気付いてそれが確定したときはゾクゾクした。詳細なネタバレは避けるが、当時の感想を振り返ってみると「宇宙人たちがなぜ会話をするのか。それは彼らにとって会話=行動であり、相手や自分自身の指示するものとして使用している。これから起こす行動の指示や説明を行っているのだ。ある意味言葉にすることは行動を強制的にし、また行動への積極性も生まれてくるのだろう。夢を言葉にするといいみたいなことをよく聞くが、言葉も行動の一種であり、つまり夢への行動の最初の一歩を踏んでいるのだ」みたいなことを書いてあった。後半は良いことを書いてある。ただこの感想からどういう宇宙人なのか想像できない、謎。というか話が主に描いているのは残酷な結末が待っていても、過程を楽しもうみたいな話だった。

 

東山彰良「流」

この頃はとにかく本を読み漁りたい時期だった。そのためまず直木賞受賞作を眺めていたところ、この本の審査員の絶賛ぷりが凄まじかったので読んだ。めちゃくちゃ面白かった。異様に面白かったことだけは覚えている。導入が好きだった。祖父が殺害され、その犯人捜しから話が始まる。といってもすぐに見つかるわけでもなく、犯人捜しの間に徴兵や恋愛、ヤクザとの抗争などの人生が描かれ、やがてその体験全てが祖父を殺害した人物との衝突に繋がっていく。もう一回読もう。

 

恩田陸蜜蜂と遠雷

 この本もめちゃくちゃ面白かった。分厚いし、2段構造で分量やばいなと思ったけども、あっという間に読み終わった。ピアノコンクールを描いた話で3人の天才と1人の秀才が主人公。天才同士でひたすら褒め合ってる。演奏シーンが8回ぐらい描かれているが、すべて違う筆致であり、またどれもがどんな演奏しているのか、観客がどのようなことを想起しているのかが分かって、読んだ後にはめちゃくちゃ知ったかぶれる。クラシックは全くわからないのに分かった気になれた。作者すごい。

 

ユウキロック「芸人迷子」

 芸人として迷っていたことが書かれてあった気がする。

 

外山滋比古「思考の整理学」

 思考が整理された。

 

筒井康隆「旅のラゴス

 ラゴスが旅をしていたぐらいしか思い出せない。

 

⑦こだま「夫のちんぽが入らない」

 誰にも相談できない悩みを抱え持つことはとてつもなく苦しく、人を追い詰めていくのだろう。辛いことは連鎖し、こちらも辛かった。

 

森見登美彦有頂天家族

 2015年以前に読んでいて、第2章が発売されるためもう一度読んだ。たぬきは可愛い。

 

遠藤周作「沈黙」

イエズス会の高名な司祭が日本で拷問にあい、棄教したとの報告を受け、真相を確かめに行くその司祭のかつての弟子2人の話。毎日祈りを捧げているのにも関わらず、私が辛い目に遭った時になぜ主は何もせず沈黙しているのか。に対して、イエスは沈黙ではなく一緒に苦しんでいたと描いた作品。もし拷問の辛みに耐えられなければ踏み絵を踏んで棄教してよい。踏み絵を踏むことも心痛だろうがそれも私は一緒に苦しむ。イエスはユダの裏切りすらなすべきことをなせと言った結果であり、赦してるっぽい。

そういえばワンピースの白ひげもこれに近いかも。白ひげ傘下の海賊スクアードが海軍の赤犬に騙され、結果白ひげを刺す。しかし、「バカな息子を、それでも愛そう」と言って許した。お前がそうしたいと思ったならそうしろ精神。

どっかの県知事のコロナ禍の最中で「自身の給与を1円」にするという発言もこれに近いかもしれない。コロナによって生活難となった人と同じ苦しみを味わうということだろう。有権者の中には、この行動に感銘を受ける人もいるかもしれない。ただし、知事は神ではない。ゆえに生活難となった人と同じ苦しみを味わってる場合ではなく、生活難となってる人を早く助けるべき。お前が一緒に苦しみ味わったところで。削減した給与分をコロナ関連の予算に充てたり、給付金などにするってことまで発表すればよかった。どこかにそれらが明示されてるかもしれないけど、給与削減したした発表しないのは悪手。だからなんだって話。

 

村上龍5分後の世界

突然、現実時間から5分だけずれた世界へ飛んだ。そこでは戦争が続いており、主人公は元の世界に戻ろうとするもその戦争に巻き込まれていく。最後の主人公の決断が印象的。

 

森見登美彦有頂天家族 2代目の帰朝」

 タヌキが可愛い。ひたすら誰も死なないでほしいと思いながら読んでた。

この年は京都と地元の2か所で野生のタヌキを見た。

 

ピース又吉直樹「火花」

最後の先輩の取った行動が気持ち悪かった。映像ではどうなっているのか。 

 

テッド・チャンあなたの人生の物語

もう一回読んだ。構造に気付く瞬間がどこだったかわかりたくて。だが、それが分からなかった。読んでてゾクゾクしたのは1回目のみで、貴重な体験だった。理論について、今度はすんなりと理解できた。 

 

テッド・チャン「バビロンの塔」

なんか塔に上る話。

 

テッド・チャン「理解」

 何も覚えてない。

 

テッド・チャン「0で割る」

内容は忘却の彼方。 

 

村上春樹騎士団長殺し

例えの中で例えだして困惑した。

独特な筆致はなんかの複線かと思ったら違った。

たくさん読まないとこの人の良さはわからないのだろう、とりあえずおれは向いてないかもと思った。公演の手伝いに行ったときに4,5年下の子が村上春樹の良さを語っていて、聞いてみると、汚い面を汚いままに書いていることが美しいみたいなことを言ってた。 

 

⑱燃え殻「僕たちはみんな大人になれなかった」

大人になれなかったそう。 

 

中村文則「教団X」

とある教団に入り浸るようになった知人を探しにいく話。それと交互にして別団体の教祖的な人の説法みたいなのが描かれる。この説法を今でもたまに読み返している。仏教は仏の悟りを弟子たちが教義としてまとめたものであり、仏自体はああしろこうしろとは言ってないだとか、仏は「我思うゆえに我あり」をはるか昔に否定しているだとか、仏は原子の存在に気付いているだとか。

 

⑳オードリー若林正恭「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」

父親との話が印象的だった。

キューバに行ってみたい。 

 

㉑今村夏子「星の子」

怪しい水のおかげで助かって、そのまま怪しい団体へと入信する両親。若い娘はそれをどうすることもできず、ままならない日常を過ごす。みたいな話だった。あり得そうで怖かった。今村夏子さんの話はどれもあり得そうで怖いみたいなのが多い印象。それを信じており、それで幸せならもういいのかもしれない。職場の前の前の課長が水素水を重宝してて、それもその人がそれを好きならもういいのかも。

 

㉒村田紗耶香「殺人出産」

10人産んだら1人殺していいという話。内容は忘れてしまったが、かなり怖かった気がする。 

 

㉓村田紗耶香「トリプル」

3人で付き合うみたいな話だった。三角関係というわけではない。 いろんな行為も3人で行う。だからカップルならぬトリプル。

 

㉔村田紗耶香「清潔な結婚」

 あんまし覚えてない。

 

㉕村田紗耶香「余命」

あんまし覚えてない。が、村田紗耶香さんの話はどれも生々しい感じがする。

 

伊藤明彦「未来からの遺言 ある被爆者体験の伝記」

とある被爆者の体験をよくよく紐解いていくと、どうやらいろんな人の体験談を交えて構築しているらしい。しかし、あまりにも強烈な体験を経るとそのように記憶が混同してしまうんだなと思った。ライムスター「ガラパゴス」の宇多丸のヴァースに、 「なんせはるか太古からの輸入文化大国 ま、どこの国もそんなもんで大部分がおあいこな ごちゃ混ぜな遺伝子併せ持つ異形なキメラ」というのがあり、文化はキメラなんだというのがこの本読んで合点がいった。

 

垣根涼介「室町無頼」

応仁の乱の話。 彷徨っていた主人公が拾われて、修行し、戦争に参加する話。面白かった。修行シーンが痛そう。

 

ロバート・A・ハインライン夏への扉

夏になったので読んだ。昔読んだけど内容忘れたのでそれもあって読み返した。歴史の裏ではこういうことが起きていた系の話で好き。 

 

スティーブン・キングダークタワーⅠ ガンスリンガー

文字の多さが半端ない。かつ緻密すぎる。油断しているとすぐ話を見失う。 

 

㉚丸山ゴンザレス「世界の混沌を歩く ダークツーリスト」

 クレイジージャーニーで特集されていたニューヨークのセントラルパークに住む人の話とかがまとめられている。面白かった。クレイジ-ジャーニーがああいう形で終わったのは残念。

 

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ「星の王子様」

全然内容覚えてない。

 

ジェイムズ・ティプトリー・Jr.「たったひとつの冴えたやり方」

意外と悲しい話だった気がする。 

 

ウィリアム・アイリッシュ「幻の女」

携帯電話もまだない時代の話。見事な構成だったが、ことあるごとに「あ、携帯ないのか」と思ってしまった。 

 

森見登美彦ペンギン・ハイウェイ

読むのにすごい苦労した気がする。 不思議な存在はいっぱいあるのだ。

 

筒井康隆残像に口紅を

50音の日本語が話が進むにつれ、1音ずつ消えていく。当然物語も消えた文字は使われて行かないため、最後の最後にはたった1音で終わる。最後までちゃんと物語として読めたのが凄い。 

 

平野啓一郎「マチネの終わりに」

 中盤のとある人物の自己中心的行動が酷すぎるだろ!と思ったあまり、読書を一時中断していた。意を決して読み進めると、やはり大変なことが起こり、ほんとにいろいろあったが、最後には良かったねという感想で終わった。

 

読書の感想なのに内容覚えてないのは申し訳ない。